Wednesday

若宮 夢路

第一週

第一水曜日

今日、僕はついに学校に行く事ができなかった。毎朝同じことの繰り返しだった。だがそれができなかった。

毎朝、僕は母に追い出されるように家を出ていく。朝起きて、着替えて家を出るまでが憂鬱で、でも家を出てしまえばなんとなくで学校までいける。でも今日は途中でその流れを止めてしまった。

今日はいつもより歩く速度が遅かったのか、電車を一本逃してしまった。次の電車が来てからでいいと思ってホームのベンチに座っていたらだんだんと電車が来ても電車に乗る気が失せてしまった。

ボーッとしているうちにとうとう学校に間に合う時間ではなくなってしまった。駅の時計は7時半といった所だろうか。ホームの自販機で缶のジュースを買うと僕はベンチの端に場所を変えてまた座りこんだ。

そのあとも一時間くらい何も考えずに座っていた(と言うより何も考えられずに)自分の座ってるホームのベンチの真ん中に制服を着た同年齢くらいの女の子が座っていた。自分の学校の制服だと気づいたので僕は彼女の方を向いてジロジロと眺めていた。自分で思うにかなり気持ちの悪い行動だったと思う。


気づくと彼女はこちらを見つめ返していた。僕はハッとして目線を線路へと移した。

「なあ、お前も学校いってないん」

不意に彼女に声をかけられて一瞬声が出てこなかった。

「ああ、はい、えぇっと、はい...」

今日初めて学校をサボったことを言いたいと思ったがそこまで言葉にできなかった。

身長は僕と同じくらいで160いくつといった所だろうか、少し猫背で周りを軽蔑するような鋭い目をしていた。

「へえ、そうなん」

そう言うと彼女はスカートのポケットからスマートフォンを取り出し触り始めた。日光が駅のホームを明るく照らしていて清々しい1日だと思った。だが学校をサボるという悪行をした自分のことが頭の中に浮かぶとすぐに罪悪感で清々しさなど吹っ飛んでしまった。


少しばかりの静寂の後、彼女がまた口を開いた。

「なあお前今暇やろ。遊びにいかん?」

「はぁっ?」

思いも寄らない一言を発せられて僕は声にして驚いてしまった。

駅のアナウンスが聞こえてきて電車がすぐ来ることがわかった。

「ほら、くるからはよして」

「ちょっと、遊びに行くってどこへ!」

僕の声をかき消すように電車がきて、さっきまでは落ち着いていた日の光を散々に散らして行った。

「遊びに行くっていったら、そりゃあ秋葉にきまっとんやろ」

「ちょっ...と」

彼女は僕の裾を思いっきり掴んで電車に引っ張って行った。急いで脇に置いていたリュックを掴んだがそのはずみに缶を落としてしまった。

アッと思ったが拾おうとする時にはもう電車のドアはしまってしまっていた。

「ちょっと缶が落ちてったんだけど」

「まあ気にしなさんなや」

馬鹿みたいに甲高い声をした、こいつには罪悪感と言うものが欠如しているようだった。電車の中はなかなか空いていて乗客は皆、うつむいてスマートフォンを触っていた。


彼女が空いている席に座ったので僕は一席開けて座った。すると彼女は、つれないなあという顔をして空いた一席をつめて座ってきた。自分のパーソナルゾーンを犯された気分になってとても不快だった。なんなんだこいつは、といった気分だ。

そのあとは彼女の質問に僕が一方的に答える形で雑談をしていた。彼女と話していると朝の罪悪感がだんだんと薄れていくような気がした。窓の外の太陽がより明るいものに見えてきた。

「なあ、あんた名前なんていうん」

「知らない人には名前を教えないもんなんだ」

「うちは、白駒しらこま 沙耶さや。はいあんたは、」

「僕に拒否権はないんだね」

「あたりまえやろ」

このなまった憎たらしい声はまるで僕の生き方そのものを否定しているような気がした。僕はこいつに自分の名前を教えてみようと思った。

清瀬きよせ 平也へいや

「しけた名前してんなぁー」

「うるさい」

突然電車に連れ込まれた挙句に自分の名前を侮辱されていい思いはしなかった。だが僕は自分自身の真前は好きじゃない。母に付けられたこの名前はどこかおかしいような気持ち悪い感じがする。

そうやってこいつと話してるうちにも電車は進んで目的地へと進んでいく

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Wednesday 若宮 夢路 @wakamiya_yumezi

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