第14話解説・其の7

「アラタさん。そういえば、イギリス人への侮辱の言葉として『ライミ―』なんて言葉をいかにも『作者の俺は博学なんだぞ』とでも言いたげに披露していましたが……」


「ああ、披露したよ。ウィキペディアで仕入れただけの知識をえらそうにな。しかし、かい子。そのウィキペディアで仕入れただけの知識で作った叙述トリックにお前は騙されたんだぞ」


「そう何度もあたしが騙されたことを繰り返さなくてもいいじゃないですか、アラタさん。とっとと続きを説明してくださいよ」


 言われなくても騙されたお前への説明をしてやるよ、かい子。ひひひ。悔しそうな顔をしていますね。


「りさ、えり、はなの三人が日本人だったら『ライミ―』なんて単語は明らかに不自然だ。『鬼畜米英』ならともかく第二次世界大戦中の日本人が『ライミ―』なんて言葉でイギリス人を侮辱するとは思えないからな。しかし、りさ、えり、はなの三人はドイツ系アメリカ人だ。イギリス人を『ライミ―』なんてののしってもおかしくないだろう」


「たしかに、『Fuckin' Limey』なんて日本語に訳し用がないですもんね。『ライム野郎』なんて言われても日本人にはなんのこっちゃですよ」


「しかし、果物のライムと石灰のライムが同じつづりなんてのはこの叙述トリックを作るにあたってネットで調べて初めて知ったんだ。ライムライトも『来夢来人』なんて当て字でしか知らなかったが、石灰灯だったんだな」


 いや、便利な世の中だ。部屋に引きこもっていてもネットで調べればミステリー好きな女神さまをぎゃふんと言わせられる叙述トリックを作れるんだから。ざまあみろ。


「それにしても、アラタさん。治安維持なんてのはうまい表現ですね」


「おおそう思うか、かい子。『りさの言う通りですわ。なにが国家権力ですの。なにが治安維持ですの。ふざけるのもたいがいにしなさいですわ』なんてセリフを出したがな。これは第二次世界大戦中の日本が舞台だと思っていると『治安維持法』のことだなくらいにしか思わないだろうが……」


「治安維持機構としてのFBIを指すんですね」


 その通り。よくわかってるじゃないか、かい子。


「かい子。禁酒法時代のアメリカを舞台にした『アンタッチャブル』と言うドラマを知っているか。密造酒で暴利をむさぼっているイタリア系マフィアを、FBIの捜査官が追い詰めるお話だ。当時のマフィアは警察もわいろで抱き込んでいたからな。そこに買収には応じないアンタッチャブルな捜査官をヒーローとして登場させたドラマだ」


「ええまあ。黒ずくめのマフィアが機関銃をぶっ放しているイメージです」


「そうだ。シカゴタイプライターなんて言葉があるんだぞ。機関銃が弾丸をぶっ放す音がタイプライターのキーボードをガチャガチャ叩いている音に似ているってことでできた言葉だ。わかるか、かい子、タイプライターの音。ルパン三世のアニメのタイトルコールでガチャガチャ言っている音」


「知ってますよ。と言うよりもリアルタイムであたし禁酒法時代のアメリカを見物していましたからね。あたしは推理小説の元祖であるエドガー・アラン・ポーの『モルグ街の殺人』をリアルタイムで読んだんですよ。あれは1841年でしたからね。禁酒法時代なんて最近です」


 そう言えばかい子は女神さま。見た目は幼女だが第一次世界大戦や禁酒法時代をリアルタイムで経験していたとしてもおかしくない。そんなロリババアを俺の叙述トリックが手玉に取ったかと思うと実にけっさくだ。


「そんな機関銃がメインウエポンだった禁酒法時代のアメリカで戦車がぶいぶい言わすんだ。どうだ、想像しただけでわくわくする絵面だろう」


「そうですね、少なくともあたしがその当時のアメリカを見物していた限りではそんな光景はありませんでした。アラタさん、ちなみに『禁酒法 戦車』で検索してたりするんでしょう」


「当たり前だ。少なくとも少しググったくらいではヒットするような創作物は見当たらなかったぞ。ウィキペディアに『禁酒法時代を舞台にした作品』なんて項目があって『バッカーノ!』や『91Days』もあったが戦車が出てくる作品はなかったな」

 

 世界最初の量産自動車であるT型フォードといっしょに戦車がキャタピラを鳴り響かせる姿を想像するとわくわくする。アル・カポネがいくらマシンガンで弾薬をぶち込んでもびくともしない戦車。


 FBIにもマフィアにも属さない第三勢力を戦車で構成する。いやいや、これはタイムパラドックスどころの騒ぎじゃないなあ。いかんいかん。俺の目的は小学校時代に俺をいじめた相手への復讐なのに……


 話が壮大になりすぎて困る。これもかい子が俺の『第二次世界大戦中の日本でガソリンをチート能力で生み出すなろう系』と思っていたら『第一次世界大戦の時のアメリカで高純度エタノールを現地の材料と技術で生み出す話』だという叙述トリックにみごとにひっかっかったせいだ。ミステリーの歴史をリアルタイムで体験していた女神さまにしてはお粗末すぎやしませんかね。


 

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