第6話戦車館の殺人・其の5

 さて、戦車の整備も完了した。


「アルにカイ。なにもかもお前たちのおかげだ。このりさ様が礼を言おう」


「りさの言う通りですわ。なんてお礼を言えばいいのかしら」


「よし、誇り高い我が家の歴史を説明してやる、ついてこい」


 はながそう言うと、りさにえりもいっしょに俺たちをらしきの奥に案内していく。そこには舞台があった。豪華なお屋敷と言っても個人の邸宅。それなのに、不釣り合いなくらいに立派な舞台。この舞台が殺人事件の舞台になればさぞや絵的に映えるだろう。本格ミステリーここに極まれりと言った感じだ。


「どうだ、りっぱな演芸場だろう。昔はここに劇団を招いて一家で演劇を楽しんだんだ。いまではこの通りすっかり使われなくなってしまったがな。そうだ、三人で芝居をやろう。アルとカイに我が家の伝統を見せつけてやるんだ」


「りさの言う通りですわ。わたくしも劇団に交じって芝居をしたんですのよ。さあさあアルさんにカイさん。ちょっとした余興だと思って。ささ、座ってください」


「いやあ、懐かしいな。設備も昔通りだ」


 こうして、りさ、えり、はなの三人が俺たちに芝居を見せることになった。俺たちが座って待っていると、りさ、えり、はなの三人が舞台の支度をしていく。舞台照明がつけられた。


「どうだ、きれいだろう。このライムライト。白熱電球なんてものができて以来、『不便だ面倒だ』なんて理由で使われなくなったが、やはり舞台照明はライムライトでなくてはな」


「りさの言う通りですわ。白熱電球なんて風情も何もあったものではありませんもの」


「しかし、ライムライトと言う響きは素敵なのに、イギリス人をライミ―と侮辱するのはいただけないがね」


 ライムライト。別名を石灰灯。棒状に成形された石灰を高温にして発光させることで舞台照明としたもの。りさ、えり、はなの三人が点灯していくが、たしかに手間がかかるしろものだ。白熱電球どころか、蛍光灯にLEDなんてものを知っている未来人の俺からすれば面倒に見える。だが、舞台照明としてこう使われるとなかなかに風情がある。


 しかし、石灰を英語では Limeと言うからライムライトなのだが、果物のライムも Limeなのだからややこしい。イギリス海軍は解決病予防のビタミンC摂取のために果物のライムをかじっていたことからイギリス人を侮辱するときはライミ―なんて言うのだが……


 ま、日本人の俺はイギリス人をののしる時にはアメリカ人も一緒くたにして鬼畜米英とすれば済む話なのだが。


「さあ、いまから芝居が始まるぞ。アルにカイ。このりさ様の芝居をとくと堪能するがいい」


「りさの言う通りですわ。アルさんにカイさん、楽しんでくださいまし」


「それでは御開帳だ」


 こうして、りさ、えり、はなの三人による芝居が始まった。


 りさ、えり、はなの三人のお父様は裸一貫から財を成したらしい。いわゆる成り上がりだが、それが逆に愛国心を強くさせたようだ。どこぞの財閥が戦争を金儲けとしか考えていない中、お父様は積極的に祖国を応援した。


 その結果が俺たちが整備した戦車だが、お父様は祖国を愛したが国はお父様を愛さなかったようだ。お父様の事業は国によってどうにもならなくなった。


 国の上層部がわけのわからない信仰で、結局はただの人間に過ぎないものをありがたがってそのお言葉を絶対視する始末。その結果、お父様の事業……例えば輸入はできなくなった。


 外国からモノを輸入することが神の言葉に反するとでも思われたのだろう。


 しかし、モノを輸入できなければどうにもならない。お父様の事業はお国に潰されたのだ。


「思い返したら腹が立ってきたわ。あの政府の大馬鹿野郎が。現実ってものがちっとも見えていないんだから。あいつらが屋敷に来たらこのりさ様が戦車で追い返してやる」


「りさの言う通りですわ。なにが国家権力ですの。なにが治安維持ですの。ふざけるのもたいがいにしなさいですわ」


「アルにカイ。今晩は休んでくれ」


 りさ、えり、はなの三人が芝居を終えると、俺たちははなに眠るよう勧められた。で、俺とかい子は二人になって未来に思いをはせるのだ。


「それにしても、本土で警察やら何やらを相手にお屋敷で戦車でドンパチやればこれはもう大騒ぎになるだろうなあ」


「アラタさん、それはもう。後々まで語り草になりますよ。そして、この月照荘が戦車館と呼ばれるようになり……」


「現在で俺の復讐の舞台となるわけだな。戦時中に血みどろの惨劇が繰り広げられた、館の中に戦車が鎮座する戦車館。そのうえなぜか個人の邸宅にあるやたら立派な舞台。名探偵の孫が活躍する漫画の初回もそんな話だったし、じつにミステリアスな雰囲気じゃないか。まさに本格ミステリーだ」


「アラタさん、今回は何人殺すんですか?」


「そうだな……殺したいほど憎らしい奴は山ほどいるが、皆殺しにしては推理ショーの観客がいなくなってしまうし。それに、教師を犯人役に仕立て上げることも忘れてはいけない」


「そのためにあたしが探偵役になるんですね」


「そうだ。かい子よ、黒幕の俺のためにしっかり見当はずれの推理をするんだぞ」


 こうして、夜は過ぎていく。明日は国家権力の犬を俺のチート能力で起動した戦車が踏みにじることだろう。これはこれで楽しみだ。



 

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