第5話戦車館の殺人・其の4

「じゃじゃーん! どうだ、すごいだろう。戦車だぞ。こんなものそんじょそこらにはないだろう。このりさ様が特別に見せてやるんだからな」


「りさの言う通りですわ。すごいでしょう。お父様の収集品なのですわ。ああ、お父様。『同胞が戦地で戦っているのに、自分が参戦しないわけにはいかない。これも陛下のためだ』なんて志願してわたくしたちを置いて行ってしまわれて」


「お父様、無事でいるかしら。鬼畜米英に殺されていないといいけれど」


 りさ、えり、はなのお父様は志願兵として戦場に赴いたみたいだ。ずいぶんな愛国者だったみたいだな。第二次世界大戦も末期には赤紙で志願と言う名の強制的な徴兵が日本でもされたみたいだが……りさ、えり、はなのお父様は陛下を敬っていたんだろうな。


「いやあ、すごいなあ。戦車じゃないですか。こんなところでこんなものにお目にかかれるとは思ってもいなかったなあ」


「本当ですよ。まさか本土に戦車があるなんて。てっきり戦車は戦地にしかないものと思っていました」


 俺とかい子が屋敷にあった戦車に驚く。その様子を見て、りさ、えり、はなが得意げに屋敷にある1台の戦車を説明しだす。


「そうだ、すごいだろう。このりさ様が説明してやるからしっかり聞くんだぞ、アルにカイ。お父様は、戦場で祖国の同胞が鬼畜米英に殺されていることに耐えられなくて、私財を投じて戦車を作ったんだ」


「りさの言う通りですわ。この戦車はお父様が一から設計したもの。見てください、この華麗なデザイン。これを水槽タンクなんて呼ばせませんわ」


「ああ、それにしても頭の固い木っ端役人と来たら。せっかくお父様が作ったこの戦車を戦地に送らないだなんて。民間人が作ったものだと馬鹿にしているのかしらしまいには『勝手にこんなものを作るな、この非国民が』なんて言い出す始末なんだから。これだからお役人ってのは」


 どうやらりさ、えり、はなの三人が得意げに説明する戦車はこの国のお役人のお気に召さなかったらしい。まあ、お役人なんてそんなものかもしれないが……しかし、この戦車が勝手な政策を善良な市民に押し付けるおかみへの対抗手段として活躍するかと思うとぞくぞくする。


「しかし、お父様が設計したこの戦車も燃料がなくてはそれこそただの水槽タンクだ。この部屋の飾り物にしかならない。ああ、もし燃料があればこのりさ様がこの戦車を大活躍させてやるのに」


「りさの言う通りですわ。ああ、我が身が歯がゆくてなりませんわ。こんな時に松で代用品なんて作ってるわたくしたちはいったい何なんでしょう」


「松で作った代用品は品質がひどくて目も当てられないもんな。全くなんでこんなことに」


 うなだれるりさ、えり、はなの三人に俺とかい子が優しく声をかける。


「燃料ならさっき俺がお前たちに作り方を教えたじゃないか。あれは景気良く燃えただろう。あれならしっかり戦車の燃料になるさ」


「そうですよ。みなさん、何をしょぼくれているんですか。戦地で陛下のためにその身をささげているお父様のためにもここはあの戦車を起動させるべきです」


 俺とかい子の言葉にりさ、えり、はながはっとした表情をする。


「それもそうか。このりさ様ともあろうものが。おい、えり、はな。今から戦車のエンジン回りの調整だ。なにせ、試作してからずっと動かさずにいたからな」


「りさの言う通りですわ。このすばらしい燃料でエンジンをフル回転させてやりますわ」


「それにしても、よくもまあこんなに品質がいい燃料を作れる方法を知っているものだな」


 はなが俺のチート能力で生み出した燃料のクオリティの高さに感心している。当然だ。なんてったってチート能力だからな。さて、それでは俺たちも戦車の整備を手伝うとしよう。


「おい、かい子。俺たちも戦車を手入れするぞ。準備はいいか」


「わかりました、アラタさん」


 ということで、屋敷にあった戦車を整備し始める。いままで火が消えたように静かだった屋敷内が途端にけたたましくなる。


「さあ、燃料が足りなくなったらじゃんじゃんこのりさ様が作ってやる。鬼畜米英ども。今に見ているがいい」


「りさの言う通りですわ。すべては陛下のために」


「おおい、アルにカイ。そっちの調子はどうだ」


 はながこちらの様子を聞いてくるが、戦車の整備のおかげでとんてんかんとやかましく、言葉じゃうまく伝わりそうにない。ここはジェスチャーの出番だ。


 俺とかい子は両手で頭上に丸印を作る。しかし、こちらの意図がりさ、えり、はなの三人には伝わらなかったみたいだ。


「おい、そのしぐさはどういう意味だ。このりさ様にもわかるように説明しろ」


「りさの言う通りですわ。なんなのですの、そのしぐさは」


「そのしぐさはどういう意味だ」


 丸印のジェスチャーはりさ、えり、はなの三人には伝わらなかったみたいだ。このジェスチャーは俺たちひょうきん族世代じゃないとわからないか。なにせこの時代はテレビすらないだろうからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る