第4話戦車館の殺人・其の3

「いやあ、さすがこのりさ様だな。あっという間にアルと同じことができるようになったぞ」


「りさの言う通りですわ。コツさえつかめばこんなに簡単にできるものだったなんて」


「これだけのものが作れるのだったら、頭の固い木っ端役人も納得させられるぞ。わが軍の大勝利間違いなしだ」


 俺のチート能力のまねができるようになったりさ、えり、はなの三人はすっかり上機嫌だ。すっかり戦勝気分にひたっている。しかし、それではいけない。こんなチート能力で過去の世界に介入したらタイムパラドックスの大バーゲンとなってしまう。


 俺がしたいことは、小学校時代の忌々しい思い出に対する復讐である。けして歴史改変なんて大それたものじゃないのだ。そもそも、りさ、えり、はなの三人は無能なお役人のせいで貧困にあえぎ死ぬ運命だったのだ。そんな三人が歴史の表舞台に登場してもらっては困る。


「りさ、えり、はな。このすばらしい成果をお国のために差し出していいのかい」


「そうですよ。この戦争は軍が勝手にやらかしたしろものですよ。そんなものに協力する必要なんてないですよ」


 俺とかい子はりさ、えり、はなの三人に反政府主義者のテロリストになるようそそのかす。


「し、しかし前線では兵隊さんがお国のために戦っているんだぞ。それを見捨てるようなまねをこのりさ様にしろと言うのか」


「そのようなこと、陛下はお許しになるでしょうか?」


「わが軍が勝てるようになる技術を独り占めしていいのかな」


 悩むりさ、えり、はなの三人に俺とかい子は自己中心的になるよう説得を続ける。ここでこんなチート能力を歴史の表舞台に出されては俺の計画が台無しだからだ。


「前線と言ったって、遠く海を隔てたはるかかなたの話じゃないか。そんな大げさなことを考える必要はないんだよ。君たちは自分の家族のことを考えればいいんだ。自分が国に何ができるか考えることはないんだよ。国が自分に何をしたかを考えるんだ」


「そうですよ。国があなたたちになにをやってきましたか。いままで馬車馬のように働かせておいて、おかみが勝手に決めたことであなたたちを路頭に迷わせようとしてるじゃありませんか。そんなお国のために、滅私奉公なんてナンセンスですよ」


 俺とかい子の説得にりさ、えり、はなの三人は心を動かされ始める。


「それもそうかな。このりさ様がなんでお国のためにだなんてしたくもない我慢をしなければならないんだ」


「りさの言う通りですわ。お役人の命令になんでわたくしが従わなければならないんですの」


「このすばらしい技術をなんで無償で提供しなければならないんだ。開発者には開発したぶん見返りがあってしかるべきだ」


 りさ、えり、はなの三人は第二次世界大戦中の日本軍人が聞いたら激怒しそうなことを言い出した。そうだ、それでいい。君たちみたいないたいけな少女が歴史の犠牲者となるのは俺だって見たくない。俺とかい子は説得を続ける。


「だいたい、戦争で人が殺しあうなんて野蛮だよ。しかも、戦争をやると決めたお偉いさんは後方でふんぞり返っているんだろう。そんなやつらのために、なんで大衆が殺しあわなければならないんだ」


「そうですよ。戦争がしたいのでしたらしたい人だけで勝手にやってればいいんですよ。それに民衆が巻き込まれるなんてあってはなりません。ラブアンドピースですよ」


 俺とかい子の言葉にりさ、えり、はなの三人はすっかりその気になった。


「よし。このりさ様は断固として戦争反対を主張するぞ。そのためには武力がいるな。戦争反対を主張するにも、その議論の場を成立させるためには武力の背景がいるからな」


「りさの言う通りですわ。戦争反対だからと言って戦力を放棄してしまっては、相手が武力を持ち出してきた場合に抵抗できませんものね。自衛のための武力ですわ。向こうが先に手を出すのを待って、徹底的に報復してやります」


「しかし、ラブアンドピースか。面白いことを言うなあ。気に入ったぞ、その言葉。しかし、お前たちは不思議な存在だな。どこからともなくやってきたかと思えば、見たこともないことをしでかす。あまつさえうちらが反政府組織になってしまった。お前ら、ただの人間ではないな」


 はなの問いに、俺とかい子はいったんうなずいた。しかし、それはまずいと思い否定的に答える。


「いや、俺たちはただの人間だよ」


「そうですよ。あなたたちと同じ人間です」


 実際は俺は未来からのタイムトラベラー。かい子は女神さま。ただの人間ではない。それだからついついうなづいてしまったが、りさ、えり、はなの三人は気にも留めずに血気盛んになっている。


「さあ、アルにカイ。このりさ様がどうやって権力のいぬをこらしめてやるか教えてやる」


「りさの言う通りですわ。この屋敷にはすごいものがあるんですのよ」


「そうだ。うちが羽振りが良かった時のコレクションだ。見たら驚くぞ」


 すごいものか。いったいなんだろう。

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