第3話戦車館の殺人・其の2
「まあ、入ってくれ。このりさ様が直々にこの屋敷を案内してやるんだ。感謝しろ」
「りさったら。久しぶりのお客様だからってそうはしゃぐものではありませんわ」
「そう言うえりこそ浮かれているんじゃないか。なにしろここ最近の屋敷の静けさと言ったら火が消えたものだったからな」
りさ、えり、はなの女の子三人組が俺とかい子を連れて屋敷を案内する。
「この屋敷もすっかり寂しくなってしまった。いいか、アラ……アラ……カイコ……呼びにくいな。お前らは今からアルにカイだ」
「まあ、えりったら。お客様にそのように失礼なことを」
「しかし、『あ・ら・た』に『か・い・こ』とは耳慣れない名前だな。どこか遠いところから来たのか」
りさに勝手に呼び名を決められ、えりがそれをたしなめ、はなが俺とかい子の名前を珍しがる。いいか、お前たち。アラタってのは
そして、はなさん。アラタやかい子と言うのは耳慣れない名前か。『耳慣れない名前ですね、異国の方ですか』なんてのは異世界モノによくあるセリフだが、すこしテンプレが過ぎるんじゃないのか。お前らの国が全世界と考えてはいけないぞ。
それにしても……りささん。アルって中国人か、俺は。しかし、下手なことを言って俺とかい子が未来から来た存在だと知られることはまずい。ここはりささんの言う通りにしておこう。
「お嬢さん方の呼びたいように呼んでくれて構いませんよ、なあかい子」
「ええ、アラタさん。あたしもそれで平気です」
俺とかい子がアルとカイと呼ばれることに同意すると、りさ、えり、はなの女の子三人組が屋敷を引き続き案内する。
「いいか、アルにカイ。このりさ様が説明してやる。この屋敷は
「りさの言う通りですわ。以前はこのお屋敷は大勢の人間でにぎわっていたんですのよ」
「それがいまではこのありさま。なにもかも鬼畜米英がいけないんだ」
りさ、えり、はなの三人の様子を見ると、アメリカやイギリスをそうとう憎たらしく思っているらしい。戦時中の祖国の敵であるからそれも当然か。
「だいたい、戦争になったからって軍人のやつらが急に威張り散らし始めたのが気に入らない。今までこの国をもうけさせたのはこのりさ様一家のような商人だぞ。それなのにおかみの権威をかさに着てえらそうに」
「りさの言う通りですわ。わたくしは陛下には忠誠を誓いはしますが、軍に従う気はありませんわ」
「そうだそうだ。そもそも輸入を中止することが間違いだったんだ。そんな政策間違っている」
りさ、えり、はなが口々に現状に対する不満を口にする。この時代の政府のやり方がそうとう腹に据えかねているようだ。
「お嬢さんの家は商いをされていたんですか?」
「この豪勢な屋敷からすると、かなり景気が良かったんじゃあないですか」
俺とかい子がりさ、えり、はなの家業について質問するとぺらぺらと説明しだす。このお嬢さんたちは一族にかなりの誇りを持っているようだ。
「商いなんてものじゃないぞ。このりさ様の家はな、血の一滴ともいえる工業の土台となるものを作っていたんだ。うちが作ったものがみんなの血肉になると言っても言い過ぎじゃあない」
「りさの言う通りですわ。輸入、生産、流通……すべてわたくしたちの一家がしきっておりましたのに」
「商売のことなんて何もわかっちゃいない頭の固いお役人が勝手に決めたことのせいでこちとら商売あがったりだよ」
血の一滴とはこれまたおおげさな表現だ。まあ、俺がチート能力で作り出した液体は国の生命線と言っても差し支えないしろものだからな。
「それで、アル。おまえがさっき作ってみせたあれはなんだ。一目見て分かったぞ。あれだけ純度の高いものをどうやって作ったんだ。このりさ様でもあんなに混じりけのないものはお目にかかったことがないぞ」
「りさの言う通りですわ。松で作った代用品はおろか、わたくしの家の全盛期でもあれだけのものをつくれたかどうか」
「いったいどうすればあんなに景気良く燃やすことができるんだ。どうしても不純物が混じって燃焼効率が悪くなってしまうのに」
りさ、えり、はなの三人は俺がチート能力で作り出した液体に興味津々のようだ。俺がチート能力で作り出した液体は、この時代の技術水準からみても飛びぬけているらしい。
「じゃあ、この屋敷でこっそり燃やして見せよう。それならば俺のすごさがよくわかるだろう。かい子、手伝うんだ」
「了解です、アラタさん」
俺はかい子に手伝わせて再びチート能力で作り出した液体を燃やして見せる。
「すごい! このりさ様でもこれだけ派手に燃える様子は見たことがない」
「りさの言う通りですわ。いったいどうしたらこんなものができるのかしら」
「お前、いったい何者なんだ」
俺のチート能力にりさ、えり、はなの三人は感心しきっている。
「こんなの簡単にできるよ、こうすればいいのさ」
そして、俺はこのチート能力のやり方を惜しげもなくりさ、えり、はなの三人にもできるようにする。なにせチート能力だ。この時代の一般人にも俺と同じことができるようにするのも簡単だ。
今は自分一人が無双するのではなく、ハーレム要員の女の子にそれまでできなかったことをできるようにさせて感謝されるのが求められるからな。
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