第2話戦車館の殺人・其の1

「ちえっ。なにが松で代用品を作れだ。木っ端役人が好き勝手を言いやがって。なあ、そうは思わないか、えり」


「りさ、そんなことを言うものではないわ。戦地で戦っている兵隊さんに比べらたこんな苦労なんでもないじゃない」


「えり、そうは言ってもだな。松で代わりのものを作るなんてそもそもむりなんじゃないのか。はなもそう思わないか」


「いやあ、これはこれで悪くないと思うけれど」


「何を言っているんだい、はな。しょせん代用品は代用品だよ」


 俺がタイムスリップすると、りさ、えり、はなと言う名前の三人の女の子たちが松の木の周りで何かしている。松から代用品を作っているみたいだな。


「やれやれ、そんなものじゃてんでだめだよ」


「アラタさん。もうちょっと言い方ってものが」


 タイムスリップした俺があまりにひどい代用品に文句をつけた。かい子が一応たしなめるが、俺の言葉を聞いた女の子たち三人組が食って掛かる。


「なんだ、おまえ。いきなりやってきて文句をつけやがって。このりさ様のすることになにか文句でもあるのか」


「そうよ。りさの言う通りですわ。戦地で戦っている兵隊さんのことを思えばこそのわたくしたちの行いに文句を言われる筋合いはありませんわ。はなさんもそう思いません?」


「そうだ。えり、その通り。文句があるならお前がもっとすごいものを作って見せろ」


 りさ、えり、はなと言う女の子三人組がいきなり現れて自分たちがやっていることに文句をつけた俺に食って掛かる。まあ、いきなりやってきた訳の分からない男に言いたい放題言われたらこうもなるだろう。


「いいよ。こうすればもっとすごいものができる」


 俺はチート能力でこの国にはほとんどあるはずのない液体を作って見せる。その液体を容器に注ぎ……


「さあ、お嬢さんたち。この液体に今から俺がライターで火を近づける。そしてこの液体が燃焼すれば……」


「おい、あんた。そんなことをしたら危険じゃないのか。このりさ様でもそのくらいのことはわかるぞ」


「そうですわ。そんなことをしたら、大問題になるのでは。ただでさえ今のご時世灯火管制が厳しいって言うのに」


「えりとはなの言う通りだ。やめるならいまのうちだぞ。いまなら警察も見逃してくれるかもしれないぞ」


 俺がチート能力でだした液体を見ると、りさ、えり、はなの三人組がとたんに慌て始める。見ただけでこの液体がやばい代物だってことがわかったらしい。それもそのはず。ガソリンのにおいも嗅いだことがないお嬢様たちには刺激が強いだろうからな。


「いや、やってやる。それ、点火!」


 俺がライターの火を近づけると、このチート能力が生み出した液体が景気良く燃え上がる。


「うわあ、こいつやりやがった。わかった、あんたがすごいってことはよくわかったから。早く火を消せ」


「りさの言う通りですわ。こんなところお巡りさんに見つかったらどうなるか。ほら、はなも火を消すのを手伝って」


「ああ、わかった。しかし、おまえはなんなんだ。いきなり現れたと思ったらとんでもないことしでかしやがって」


 りさ、えり、はなの三人組が慌てて消火活動を始める。どうだわかったか、お前たち。俺のチート能力のすさまじさが。


「とりあえず自己紹介させてもらおう。俺はアラタ」


「あたしはかい子です」


 自己紹介した俺たち二人を女の子三人組がじろりと見つめる。


「とりあえずこのりさ様の屋敷に招待してやる。お前らみたいな訳の分からないやつをほうっておいたら何をしでかすかわかったものじゃない」


「そうしたほうがよさそうですね。わたくしたちまで巻き添えをくいかねませんもの」


「ちえっ、いったいなんなんだ」


 りさ、えり、はなの女の子3人組が俺とかい子を自分たちの屋敷に招待した。それでいい。その屋敷が現代では戦車館となり、俺の殺人計画の舞台になるのだ。


「第一段階はうまくいったみたいですね、アラタさん」


「ああ、この戦時中のご時世に俺があんなものをチート能力で作ったんだ。それを見て慌てないほうがどうかしてる。とりあえず、『ちょっと来ていただけますか』となるはずだ」


 こうして、俺とかい子はりさ、えり、はなの女の子の三人組にお屋敷に案内された。


「どうだ、立派なお屋敷だろう。なんてったってこのりさ様のご邸宅だからな」


「そうですわ。我が家は代々伝わる名家でしたのよ。見てください、この重厚なたたずまい」


「えりの言う通りだ。うちは伝統的な一族だったんだ。最近は物資の規制だかなんだかですっかり羽振りが悪くなってしまったがな」


 りさ、えり、はなの女の子三人組が自分たちのお屋敷の前まで俺たちを案内すると、そのお屋敷のすごさを自慢しだす。たしかに豪邸だ。縦にも広いし横にも広い。どのくらい広いかと言うと、その屋敷の中で1台の戦車が突入してきた警官隊相手に縦横無尽の活躍ができそうなくらい広い。


 しかし、その広さのわりに人の気配はない。はなが『羽振りが悪い』なんて言ったが、非常時の物資の規制のせいなのかもしれない


 

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