戦車館の殺人
@rakugohanakosan
第1話プロローグ
「それで、アラタさん。アラタさんは小学生時代の憎たらしい相手に今度はどんな復讐をするんですか」
「それはだな、かい子よ」
「『かい子』ですか。それはあたしがつけた仮の名前ですのに。いいかげんきちんとした名前つけてくださいよ」
「うるさいな。いざつけようと思うといいのが思いつかないんだよ。とりあえずあんたは『かい子』呼びだ」
こうして俺は『十六角館の殺人』に引き続き、小学校時代に俺をいじめた相手とそれを黙認していた教師への復讐計画をかい子に話し始める。
「今回はな、第二次世界大戦中にタイムスリップする。それも戦時中の本土真っただ中だ。『十六角館の殺人』の時みたいに戦線から離れた絶海の孤島じゃないぞ」
「ほう、そんなところでアラタさんはどんな復讐計画を実行するんですか?」
「それはだな、第二次世界大戦中の日本ではガソリンが枯渇していたことは知っているだろう。アメリカから石油が供給されなくなったからな。そんな状況にチート能力を持った俺がさっそうとして登場してだな、日本で不足しているガソリンをじゃぶじゃぶ出してやるんだ」
俺の大言壮語にかい子は不満そうだ。
「またチート能力ですか、アラタさん。あたしはそんなものをアラタさんに授けられないって言いましたよね」
「うるさいな。どうせ実現しないフィクションの話なんだからなんだっていいだろ。あんたのお望みは俺がため込んだ恨みつらみを果たす心象風景なんだろ。だったら、その恨みの果たし方くらい好きにさせろ」
「はいはい。それでまずは戦時中のモノ不足に嘆いている女の子たちをハーレム要員にするんですか、『十六角館の殺人』の時みたいに」
くそ、かい子のやつ。『またお決まりのワンパターンストーリーか』なんて顔をしやがって。今に見てろ。ぎゃふんと言わせてやる。
「そうだ。なにしろ第二次世界大戦中の日本と言えば、燃料不足で松の根をほじくり返してそこから松根油なんてものを作り出してガソリン代わりにしようとしていたくらいだからな。そこで俺がチート能力でガソリンを使い放題にするんだ」
「まあ、アラタ大先生の序盤ハーレムパートには大して期待していませんから好きにしてくれていいですが……で、そのガソリンをどう女の子たちに使わせるんですか。ゼロ戦なんかを飛ばしちゃうんですか」
「ふん、そんなことはしない。俺のガソリンで女の子たちに戦車を操縦させるんだ」
「戦車ですか! 女の子と戦車。アラタさん、あれを意識しているんですね」
俺が戦車を登場させると言ったらかい子がネタ元をにおわせた。
「そうだ。女の子が戦車を操縦するアニメが非常に人気が出た。第二次世界大戦中に日本の女の子が戦車で活躍する話を書いたら二匹目のどじょうが狙える」
「そういう、安易な人気作品の後追いは感心しませんねえ」
「いいだろう。ひとの作品が書籍化とかメディアミックス化とかあおった癖に。売れる作品を作るには売れてる作品をパクるのが一番手っ取り早いんだ」
今の創作界隈を見ろ。そんな作品ばかりじゃないか。
「で、アラタさん。女の子たちが乗った戦車がアメリカ軍をばったばったと蹴散らしていくんですか?」
「いや、女の子たちには自分たちを非国民とののしる同じ国の日本人を相手に戦ってもらう」
「それはまたどうしてですか、アラタさん? 史実では敗戦する日本を、チート能力で勝利に導いてこそのチートスキルじゃないんですか」
かい子が不思議がる。ふん、考えが浅いな。
「そんなことをしたら、タイムパラドックスで歴史改変されて俺の小学校時代の恨みを晴らすどころの話じゃなくなってしまうじゃないか。あくまで重要なのは、チート能力で怪しげな館を建ててそこを舞台に殺人を行っていくことなんだから」
「なるほど」
「そもそも、そんな日本を第二次世界大戦の戦勝国にするなんてお話は架空戦記と言うジャンルですでにやりつくされている。異世界モノがはやるずっと前にだ。そんなものを書く気はしないし、そもそもそんなおおがかりになりそうな話を書ける気がしない」
俺が書きたいのはワールドワイドな戦争話ではなく、クローズドサークルで起きるこじんまりとした殺人事件なのだ。
「燃料のために松の根掘りを強要されている女の子たち。その子たちは史実なら無茶な労働と栄養不足で全員死んでしまうはずだった。その子たちを俺がチート能力で助けてもともとあった館に立てこもらせる」
「今回は館を一から建てるんじゃないんですか」
「いや、女の子たちが立てこもった館に偶然戦車があったと言うストーリーだ。その戦車を俺のチート能力で生み出したガソリンで活躍させる。館に立てこもった女の子たちは、当然『この非常時に国策に背く非国民』なんて糾弾されて、警察なんていった国家権力にどうこうされるだろうからな。そんな国家権力の犬を戦車で蹂躙するんだ」
「そんな、7日間の戦争みたいな展開……」
「いいんだよ。さっきも言ったじゃないか。序盤のハーレムパートなんてたいして期待していないって」
「それはそうですが……」
「ならば、とりあえず俺の復讐の舞台となる館の成立を過去にタイムスリップして実現させるぞ。そして、その館を舞台にして現代で復讐してやる。名付けて『戦車館の殺人』!」
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