第7話 拾得物・拾得金
本当に久しぶりの客が去った後、少しだけぼうっとしたが、やがて我に返ると売り口の鍵を閉めなおし、男が動き回った周囲を少し掃除した。
そしてレジの裏の引き出しを開け、紙を取り出すと「拾得金・拾得物」と書かれている場所の下に今日の日付と渡すはずのつり銭の金額を書き、それを男が放り出していった一万円札に輪ゴムと一緒に巻いてセロテープで止める。
それを持って三階の事務所まで戻ると、事務の社員の机の上に置いた。
バックヤードに戻り、整理をする。
改めて見返すが、結果として片付いたようには見えない。
担当以外のところがいつも手つかずのままほったらかしだから当然だった。
まあでも、担当が来てからまかせればいい。
いつも帰り間際に結局はそう思っている。
一人に出来る事は限界があるのだから。
ずいぶん前から自分以外のスタッフが来ていないけれど、明日はそうじゃないかもしれない。
明日じゃなくても、明後日は、あるいは来週は。
来月になったら、またぽつぽつ人が来はじめることもあるだろう。
エプロンに入れていたスマホの画面を見ると、ちょうど退勤の時間になっていた。
事務所に戻り、エプロンをハンガーに戻し、荷物を手にする。
タイムカードを押して退勤する。
「お疲れ様です」
誰もいない事務所に声を掛けると、出勤したときと同じように裏手の階段を下りて従業員出入り口から出た。
夕方になるとだいぶ寒くなってきた。
この状況で迎える冬はいつもより寒く感じるのだろうか。
いかんせん初めての事なので何もわからなかった。
何事も経験だろうか。経験したところで同じような状況の冬をまた迎えられるかは知る由もなかったが。
他に誰も止めていなかった駐輪場から乗ってきた自転車に再び乗る。
市の中心地なだけあって、暗くなり始めた街並みの中にわずかだが人影が見える。
あの人たちも、仕事の帰りだろうか。
中にはこれから仕事の人もいるかもしれない。
みんな、元通りになった時に備えて、仕事をしているのだろうか。
それとも、他にやる事がないから仕事場に行くのだろうか。
他人の事は、考えてもあまり仕様がない。
それよりも、今日の夕飯の事を考えよう。
また帰り道の途中で運よく開いているスーパーかコンビニがあるだろうか。
それとも、同じように仕事場向かった人のいる食堂かファミレスがまだどこかにあるだろうか。
とりあえず、明かりの付いた建物に沿って帰ろうと思った。
まだ、夜中に完全な暗闇が訪れる程、人は減ってないはずだから。
完
しゅうまつはしょてんにいってあれをかおう さかえたかし @sakaetakashi051
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