RTA狂人による異世界転生RTA

本乃蛆

第1話 俺の人生RTA!!!!!

 俺はRTAが好きだ。


 俺は中学でRTAの素晴らしさに気づき、一通りのゲームで上位陣に食い込み、魔窟の中で数秒、数コンマを削り合う日々を送った。そして俺は、


 人生をRTAすることに決めた。

 

 高校1年の秋のことだった。

 しかし俺は悩んだ。


 人生において、どこをゴールに据えて良いのかわからなかったのだ。

 勿論、最終的には死があるわけだが、それだけを目指すと自殺一直線になってしまう。

 その上、人生はリセットが効かない。

 ゴールとその間のチェックポイントとを決めたとして、ミスった時にやり直すことが出来ない。

 

 取り敢えず登校・下校時間や課題提出、体育の着替えといったやり易いものを始め、思い付いたときに思い付く限りのRTAをやった。部活動はジャンルが多く、RTAのネタに事欠かなかった。


 体を鍛えて運動部と凌ぎを削り、漫研で速読し、美術部で絵を描き、写真部と連写し、文芸部と感想文を速記し、合唱部と早口言葉をし、吹奏楽部と高速演奏し、パソコン部と......長くなるので割愛する。


 高校3年の夏、俺は大半の部員を破り、残った強者を打ち倒すべくチャートを練りながら相棒のストップウォッチを握り締め家路を急いでいた。


 この頃、大会に参加させようとする運動部の部長達が校門に並んでいたのだが、日々下校RTAをこなす俺の敵ではない。通り魔に遭遇しても問題なく帰れるように対策ぐらいしている。


 残った強者を倒したら暫定的なRTAがある程度片付く。

 また首をもたげてきた人生RTAについて考えなければならない。

 

 そんな風に考え事を続けていたせいだろう、綿密なチャートを組んで横断歩道を走行していた俺は、信号無視した一台のトラックによって撥ね飛ばされた。


 俺は一瞬、ある意味人生RTAを終えたことに歓喜したが、それならばもっと早くに死んでしまった子供など沢山居ることに気付き、そいつらを越えないと今死んでも何ら意味がないと憤慨した。そして、俺の怒りとは反対に意識は薄れていった。




 しかして俺の意識は戻った。


 生まれたばかりの子供の中に。


 俺は32秒と少しぐらい戸惑った後、周囲を漂っている半透明の相棒に気が付いた。まだ何も見えない視界の中、相棒だけが鮮明に透けている。


 相棒は既に計り始めていた。



 それから3年と2ヶ月半と数日ほどが過ぎ、俺は親の目を盗んでは魔物を狩っていた。


 そう、この世界には魔法があり、魔物がいて、人間がいて、魔族がいて、獣人がいた。日本はなかった。


 この世界の人々は魔物を倒すことで強くなっていく。そして、俺は自身のそれをステータスとして見ることができた。


 俺には異能力があった。

 

 俺は死んでも、いくらでも転生を繰り返すらしい。相棒と共に。


 俺は歓喜した。これで漸く、本当の人生RTAができる。リセットができる。


 俺が漫研と共に読み漁ったライトノベルには、異世界に転生する話がいくつもあった。それには、テンプレというものがあり、一先ずはそれをチェックポイントとして設定してRTAを始めた。


 この世界には魔族がいるが、悪の魔王はいなかった。それよりも、亜人排斥論を唱える人間の方が余程ヤバかった。


 今回は亜人擁護系でいこう。

 

 ライトノベルを参考にチェックポイントを設定し、チャートを立てて腐った貴族どもをぶち殺していった。


 俺は新たに多種族国家を建国した。

 勿論、ヒロインを忘れてはいけない。


 彼女は魔族で、空間魔法を使った。出会った当初は人間ということで警戒されていたが、協力して貴族とその私兵をぶちのめしていくうちにその......なんというか、惹かれた。

 詳細は俺の羞恥心が限界なので省く。


 国王になった俺は政治をし、疫病を解決し、龍を倒し、災害を倒した。人族の神を名乗る邪神も倒した。


 最後には世界を渡り日本にも帰ってきて大暴れしたが、そうして、ノルマをこなした俺は、相棒のボタンを押した。


 19年3ヶ月16時27分3.2894秒


 長いな。次は18年だ。





 

 俺は、何度も転生し、異世界転生RTAを敢行した。まず、現代日本でトラックに轢かれるところからだ。

 そこからはなんパターンがあり、普通に転生したり、女神に呼ばれたり、邪神に呼ばれたり、異世界の姫に呼ばれたりする。

 そうしてそれぞれ特殊能力を得たりチートを得たりダンジョンを得たり勇者になったりする。


 異世界自体にもパターンがあり、魔王を倒したり貴族を倒したり召喚国を倒したり邪神を倒したり大陸を制覇したり星を統べたりする。


 俺は全てのRTAを等しく比べるのではなく、ジャンル毎に分けることにした。

 それでも結構差異が大きいため、更に回数をこなせばより細分化させるだろう。


 2,30回目を過ぎた辺りで、転生先にヒロイン達が追いかけてくるようになった。どうやら時空間魔法を修得したらしい。

 会えたのは嬉しかったが、出会った矢先彼女達にぐちゃぐちゃにされた。

 勿論、物理だ。

 また転生するかと思った。

 

 その後、俺は魔法が使えないように封印術を何重にも掛けられて特殊な檻の中に監禁された。


 いやー封印術使いだけでこんなにいるんだもんな。

 絶対に逃がさんとする光すらも吸い込まれそうな―――いや、実際激情に感応して魔眼が発動しているが―――いくつもの眼が俺を見ている。


 .........


 .........ッ!!


 そうか、これはヤンデレヒロインルートっ!!!


 俺のRTAは、まだ、これからだ!

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