第6話 俊東京へ

 とうとう来てしまった……。


 俺いったい何考えてるんだろう。迷惑になることはわかっているのに、何をしているのだろう……。


 思いあぐねはしたが、結局来て様子を見なければという気持ちには勝てなかった。俊は、周りの光景を見回した。大小さまざまな建物が見え、ひっきりなしに人が行き交い、あらゆる方向に移動している。人も建物も密度が高い。

 

 地元の電車ではすぐにゆづきを見つけられたが、ここでは見つけることができるのだろうか。ぐじぐじと悩む自分が嫌になった。人混の中からゆづきが現れた。


「はーい、俊おまたせ!」

「ああ、よかった。こんな人通りの多い駅の前で待ち合わせて合えるなんて、すごいなあ」


「すごくないよ。目印がいろいろあるでしょ。誰でもすぐ慣れるって」

「そんなもんかなあ。すごい久しぶりに会う気がする。一週間ぶりぐらいか?」


「そうね、もっと経った気はするけど」


 東京の風景の中でも、やはりゆづきはゆづきだ。顔を見たら無性に嬉しくなった。環境が人を変えてしまうと思って心配していた。


「なんか、歩くの早くなった?」

「忙しいと歩くのも早くなっちゃうのね」


「俺やっぱりゆづきの家にはいかないでおく」

「あれ、どうしたの。別に気にしなくていいんだよ。向こうの友達が来るって言ってあるから」


「いいんだ。この辺で昼飯でも食べていこう。そのぐらいの時間はあるだろう?」

「まあいいけど。なんか、ごめんね。せっかく来たのに」


「こちらでおすすめの店教えてよ。俺も紹介しただろ?」

「ああ、そうだったね。ラーメン食べよう。この間はうどんだったから」


「よーし、オッケー」


 やっぱりいろいろ考えすぎだった。


「豚骨ラーメンの美味しい店があるんだ。そこにしよう」

「いいね! 今日は俺のおごりだ」


「わー、嬉しい!」


 ラーメンの湯気と豚骨の香り高いスープが喉から鼻に抜ける。これもこっちでの日常なんだ。お客さんの出入りも早く、食べている間に周りのお客さんはどんどん入れ替わっていく。のんびり餃子も味わいながら、交代でスープをすくっていく。


「あのさ。必ずこっちに戻って来いよ。今は大変だと思うけど」

「あたしもそうしたい。このままじゃ、みんな中途半端になっちゃう」


「そうだよ。元気出そうぜ!」


 俊は、ゆづきの頭を撫でた。


「今のこの瞬間を大事にしなきゃね」

「そうそう、考えてる場合じゃないぞ」   


 俊は駅のホームまで送ってもらい、何かドラマでこんな光景を見たなと思い出していた。これって遠距離恋愛、そんなかっこいいもんじゃないよな。辛すぎるー。と俊はつぶやいた。

 

 遠ざかっていくゆづきもなんだか涙目になっているように見えた。


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