第3話 枯渇-現実と理想の狭間で喪う-

金がない。金は入ると言ってたのに、全くない。やりようのない怒りと焦りが心と頭を同時に満たして、誰でもいいから金を払うことに関わっている奴等のうちの誰かを殺してやろうと思う所だ。金が支払われないのは何故だと思う所も頭の中にはあるーー仕事をした以上は報酬は支払われるのが妥当だのに、払われない。それはいけないことだ。俺は断固抗議する、と思い乱暴に電話を取った。ダイヤルするのは会社ーーあくどい仕業に殺気が満ちる。

『この電話は現在混み合っているために、電話に出られません。再度おかけ直し下さいーー繰り返しますーー』

俺は憤怒の雄叫びを上げる。手にしたのは包丁。殺してやる、殺してやる、とどこから声が出てるのか分からない声を出しつつ、家を出た。奴の居場所を割り出す。まずは漫画喫茶、モジュールボードでハッキング。会社のものなら大体は知っている、携帯電話、それを騙す。ドメインを偽装してアップデートに重なる。位置情報を盗み見る。いた。この通り、会社は休み、なら、愛人の家だ。あの辺り、よく見て、google earthで家を割り出す。ここか、殺す♪ 急行。女とやって気づかない中を、窓を割って侵入。良く切れる出刃包丁を取り出しドアを蹴破る。

「ハィアロー、社長。金を払いやがれえええええ!! オラァ、死ねえ!!」

それからは滅多刺しだった。女も滅多殴りの滅多刺し。当然だと思った、だって、こいつらは金を払わないから。

誰が呼んだか、警察に連れて行かれる時には、とても満足していた。だって、これを機に、みんなが金を払われるかもしれないから。俺は殺人者だけど、後の苦しんだ人は殺人者じゃない。そう思い、瞼を閉じた。フラッシュの光が広がって眠りに落ちるーー。

ハ。朝。休み。金。入ってない。落ち込んで、とりあえずコンビニ、ATM。

あ。入ってた。なんだ……入ってたのか、勘違いだった。そういえばあれは記帳してなかったな。で、コンビニでたらふく過ぎる程買い、家に。旨い。

多くは望まない、自由は少しで良い、ただ、そのささやかな自由さえ奪うなら、殺すーー絶対に、殺す。社長だけに限らない、ささやかな自由を奪う者は、必ず殺さねばならないから。そう思えば、金の怖さが分からないだろうか。なぜなら、ささやかな自由さえ無いものは、生きているとは言い難いならだ。金と共に生きる喜び、忘れないでいたいからーーささやかな幸せを噛み締めて、明日とも知れぬ身を養う。

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