Chapter 2;悪魔遣い

「おい、カマエルッ! 大至急俺の20年ものワインを取りに行け!」

『畏まりました』

 午後二十二時――都市を一望できるマンションの一角に、白髪と髭を生やした五十代前半らへんの男と、給仕服メイドふくを身に纏った無表情の少女がいた。

 男は、官僚を務めており、ある程度の地位を確立している。最近では「天使」…カマエルを買ったことによって更に怠惰となっていっている。

 彼も昔は日本の平和の為、一生懸命働いていたが、政界の闇を垣間見て、努力は無駄だと思い知らされ、その心に追い打ちをかける様に「天使」の出現によって、完全に堕ちてしまったのである。

「天使」は広告通り、何でもしてくれる有能な物だ。官僚の仕事を任せることも出来て、何なら会食などでもカマエルに命じて代わりに行ってもらったまである。迷彩や疑似人格のおかげでその事が露呈することなく、自動的に収入が入る…これほどの至福があるだろうか? と疑問を呈したくなる待遇だ。

 そして、カマエルはラベルの貼られた如何にも高級そうな赤ワインを持って男のもとへと向かう。

『お待たせ致しました。では、注ぎます』

 カマエルの声は、完全に人間のようだった。機械の様な耳に障る声などではなく、普通の女と言われても見当つかない、噂通りの声音だ。

 赤ワインをグラスに注ぎ、瓶を置く。

 男はグラスを持って軽く匂いを嗜み、口に運ぶ。

 彼は仕事もサボり、全ての事を「天使」に一任し、怠惰に食事を貪り、眠っている。これは単純に世間の問題というのもあるが、「天使」が彼の堕落化を助長させたといってもいい。

 こういった人間は、堕落すると常識を、理性を、精神の枷が脆くなる物なのだ。

 プルルルル――電話が鳴り響き、男はスマートフォンを手に取る。

「もしもし」

『私だ、近衛だ。今回は君に話があって連絡した次第だ』

 近衛――男の上司的存在であり、官房長官を務めている男だ。彼が突然電話してくるということは、何か問題が発生した可能性がある。

「何があったのでしょうか!?」

 さっきまで欲望に塗れていた表情が崩れ落ち、真剣な表情へと豹変する。こんな時間に電話となると、何か個人での話なのだろう。

『実はな、君を更迭処分する運びとなった。明日から君は官僚の座を免除する』

「はぁッ!? どうしてですか! 私は一生懸命国のために働いたつもりですが……ッ!?」

 男は必死に弁明する。更迭処分ということは、二度と国会議事堂に踏み入ることも、莫大な資産が手に入ることすらなくなるという事。

 そんなことになれば、人生転落だ。男は一応理由を問い詰める。理不尽に解雇されるというのはひどすぎる。

『君が「天使」を用いた形跡が発見された。知っての通り、我らは「天使」の使用、保有を一切として禁じている……つまり、そういうことだ』

 近衛の言葉を聞いた瞬間、心臓が締め付けられる感覚に襲われる。「天使」は機械すら欺く高性能な迷彩と勘が鋭い人間でも騙し通すことが出来る本人に酷似した疑似人格を持つ。

 そんな「天使」の高性能な擬態をただの人間が見破れるはずがない。

「ど、どういうことで?」

『はぁ……要するに、君が創造神協会の運営する通販サイトから座天使カマエルを購入した経歴があるのだよ。それならまだしも、君は一回、「天使」による擬態をしていたことが報告されている』

 男は思わず驚愕してしまう。何故、迷彩と疑似人格がバレたのか? カマエルの――否、「天使」全機の性能は完璧なはずだ。なのに、どうして露呈した? そう思っていると、近衛が口を開く。

『君の会議中、会話が何処かぎこちなく、そして肝心の内容について一切として理解していなかったそうだ』

 男はその言葉を聞いた瞬間、カマエルの方を一瞥する。話の辻褄を合わせられる機能も備わっていると過信していたが、最低ランクの「天使」というだけあってか、脆弱性があるのだろう。

 だが、今はそんなことを考えている余裕は無く、ただこの危機的状況を脱却するしかなかった。

「し、しかし……ッ!」

『事実は事実だ。君に代わる官僚は既に決定している。では』

 と、近衛は一方的に通話を切断する。必死に叫ぶ男であったが、その叫び空しく、無駄なものとなる。

「チッ……おい、カマエル。お前はとんだ失態を犯したな? 仕置きをしたいところだが、お前にはまだ利用価値がある。――そうだ」

 男はカマエルの許へと歩み寄り、肩を叩き、耳元で囁く。

「殺し、だ」

 その下衆な笑顔は、あらゆる欲望と憎悪、怨讐が込められていた。殺害――「天使」は主人には絶対なる忠誠を誓う。たとえ殺しでも、難なく熟す。

 しかも、カマエルは知能こそ一般の「天使」より多少なりとも低いが、戦闘能力だけは高いのだ。

『……私は何をすれば?』

 カマエルは純粋無垢な表情で小首を傾げる。その後、彼女は殺人をしろと命令されることも知らず――

「単純だ、近衛博隆このえひろたか官房長官を暗殺しろ。誰にもバレず、何にもバレずに、だ」

 その命令に、カマエルは一歩引き下がって、懇切丁寧に一礼する。

『了解しました。これより、近衛博隆の暗殺を開始します』

 カマエルは腰らへんに華奢な手を回して、何処からともなく伸縮自在の零細な剣を取り出し、まるで騎士のように剣を構える。

 

   †


「ふあぁ~、眠い……チッ」

 唐突に舌打ちするアデックの団長ソロモン・リュースレスは現在、寝転びながらタブレットを眺めていた。彼は日課であるネットニュースを見ていた。そこには、今日未明日本の近衛官房長官が何者かによって暗殺されたという話題であった。

 曰く、その殺人事件の犯行の方法は一切として判明しておらず、犯人の容姿や名前も一切として公開されていないそうだ。

 最近、こういった未解決事件が多すぎる。謎の爆破事件やアイドルの突然死、集団による大量の薬物中毒死者事件……いずれも犯行者は判明していない。

 それらしい容疑者はいるにはいるが、どれも正確な情報は発覚していないのが現状だ。

 この事件の真相、メディア側は一切として理解していないらしいが、ソロモン達にはその正体が、大まか見当がついている。

 それは単純明快、「天使」だ。

「天使」にはアデックの職員が保持する「悪魔」と酷似した能力を搭載している。それらはどれも非科学的かつ超常的な事象を齎すものばかりで、不可解な殺害も当然可能だ。

「畜生ッ……! これだから人類ひとの皮を被った機械は……! いくら主人の性根が腐っているからって……」

 ソロモンは忌々しそうに独り言を呟く。

 この世界で、「天使」は難しい立場にある。つまりは賛否両論。

「天使」は人間の願望を叶え、人間の届き得ない願望を叶えられる特別な存在。労働の量が減ることで人々のストレスが減り、幸福度が増す。人口爆発寸前の世界で人口が減るのは願っても無いことだ。

 ――これが賛成派の人間の意見。

「天使」は人間を堕落させ、怠惰にする。人間たちによって構成されていた世界が、機械によって身勝手に支配され、意志関係なく殺される。「天使」は何でもする…それ即ち人間側は何もしなくても勝手に何かが為される状態にある。それは堕落化の何よりの証明であり、何でもできるというのは理性の枷を緩めること他ないのだ。故に我々は、「天使」などという最悪な兵器とそれを創る創造神協会を終わらせなければいけないのだ。

 ――これが否定派の意見。

 ソロモンは勿論、否定派の意見を尊重している。この意見は、傍から見れば「天使」のみを批判しているように見える。現にソロモンはその意見の脆弱性を肯定している。

 だが、そのほとんどの原因は「天使」と、それを製造する創造神協会にある。

 人間側にも多少なりとも原因がある。彼らの根の性格が狂人じみていたり、傲岸不遜だったりすることも少なくない。しかし「天使」は、その負の感情を抑制することなく、寧ろ開放し、増幅させている。

 人間にも罪はあるが、「天使」はその罪業を戒めることなく、考えなしにその命令を鵜呑みにし、動く。

 この世界を狂わせる原因である「天使」は全て破壊し、創造神協会は勿論、「Project;Deus Ex Machina」をも消し飛ばし、世界を調和させる。それがソロモンの目的であり、永遠の課題だ。

 そして現在、推定だが「天使」によって日本の中枢の人間が殺されたとなれば、一大事だ。このような事件もまた、日常茶飯事の出来事だが、放置することはできない。

「クソッ――結構まずい状況下で、こんな事件起こされても困るんだよなぁ……」

 ソロモンは上体を起こして後頭部を掻く。

 そう、現在は智天使長ゼルエルの殲滅計画の為の業務で手が空いていない。諜報員も現在はゼルエルやその主人の情報操作で缶詰状態だ。

 戦闘員を向かわせようとも特殊諜報室と同じように戦闘訓練や更なる作戦を発案している最中だ。簡単に人員を欠くわけにはいかない。

 ……となれば。

「俺が働いたら、皆の気持ちを無碍にするから、あまり動きたくはないんだが……今回ばかりは仕方ないか」

 辟易した表情で、ソロモンはタブレットを操作し、あるアプリを開く。

 その名は――《七十二魔鍵ゲーティア》。このアプリこそ、ソロモンの保有する兵器――「悪魔」だ。

 そこには更に他のアプリが保管されており、総数は計七十二個。その中の一つである紫紺と漆黒の孔雀が描かれたアプリをタップする。

「来い――【叡智の観測者アンドレアルフス】」

 刹那、ソロモンの背後に孔雀の様な美しい闇の様な翼が出現し、彼の瞳に紫紺の五芒星が露わとなる。

 瞬間、画面に数々のウィンドウが現れる。それはとある人間の情報の記載された資料であった。そこには、件の官房長官殺人事件で使用されたであろう「天使」の詳細が記載されていた。

 創造神協会の運営する通販サイト…「テスタメント」より販売されていた最低ランクの「天使」…座天使カマエル。使用する武装は天蠍の剣。機動性に長けた細剣レイピアであり、一時的であるが物質を透過する特殊な迷彩を保有する。

 更に搭載されている「千里眼」は、約20メートルを見通すことが出来る。戦闘には十分向いている性能を持つ。

 ――だが、

「カマエルか……。所詮は最低ランクのガラクタか」

 ソロモンは溜息を吐いて呟く。そう、物質透過能力に千里眼…普通の人間からすれば途轍もなく強いが、彼らアデックに与する「悪魔遣い」にとっては、弱い部類に入る「天使」なのだ。

 更に、そのカマエルを購入した主人の名前は佐藤桐信さとうきりのぶ。防衛省の官僚を務める男で、その高慢で横暴な態度から部下から憎まれているそうだ。見る限りだと性根はある程度腐っているらしい。

 最近の情報だと殺された近衛官房長官によって「天使」による不正が発覚し、更迭処分を下されたらしい。

「多分、カマエルの性能に感けて全ての業務を任せてたんだろうな……って、畜生。コイツ、創造神協会と関わり持ってんのか…ま、どうせ道化か」

 創造神協会とは、自分の利益は勿論、「天使」を正確に運用し、その欠点や脆弱性を基に「神」を創造するための臨床試験を世界規模で行っている。故に、彼らはこの状況を見据えたうえで、多くの人間と関係を築いている。佐藤は謂わば、彼ら創造神協会の臨床試験のモルモットに過ぎないのだ。

 そう考えると、性根関係なく不憫に思える。

「こいつは……早急に殺さなきゃな」

 ソロモンは【叡智の観測者】を閉じて、《七十二魔鍵》のホーム画面へと戻る。そして今度は漆黒の翼とコンパスの描かれたアプリを開く。

 そこには広範囲の地図が表示され、ソロモンは佐藤が住むマンションの場所を指さす。すると、白黒のピンが生成され、床に方陣が出現する。

 ソロモンは軽く伸びをして、方陣の上に立つ。

「さーて、【刹那を切り裂く魔王の右腕バティン】」

 瞬間、白亜の閃光に包まれ、姿が消え去る。


   †


「フハハハハハッ‼ カマエル、貴様でも役に立ったなぁ! これで俺の復讐は果たされた! 警察どもは目を回してやがるッ! 実に面白いッ!」

 男――佐藤は流れる報道を眺めながら嘲笑していた。勝利の高笑いだ。彼は完璧な殺人に、カマエルの失態を忘れて褒め称えていた。

 今まで「天使」による殺人事件は未解決として解決を放棄されていた。今回も大丈夫だ、と高を括っていた。

『痛み入ります』

 カマエルは誇らしくある主人の役に立ったことに対し、普通通りの無表情で一礼する。一見、「天使」には感情は無いと思われがちだが、性能によって高性能な知能や人格を搭載するモノもあり、カマエルはあくまで佐藤による調教によって無表情を貫き通している。

 そんな彼らの前に、悪夢であり、救いが、降臨する。


「よぉ、「天使」カマエル。そして、佐藤桐信元・防衛省官僚」

 何処からともなく、謎の声が響き渡る。佐藤とカマエルはその声のする方向へと振り向く。するとそこには、漆黒の乱れた髪を持ち、紫紺と真紅のオッドアイを持つ青年が悠然と立っていた。

 そう、アデックのボス――ソロモン・リュースレスであった。彼はどうやってこの場所に侵入したのか。それは先程ソロモンが発動した「悪魔」…【刹那を切り裂く魔王の右腕】による瞬間移動の能力であった。

 この「悪魔」は座標を設定し、自由な位置に、正確に瞬間移動することが可能なのだ。

「な、何者だ!? 貴様、住居侵入罪で……!」

「いやいや、佐藤氏。テメェは一応、殺人罪の共犯者としてカウントされるぜ? しかも今のご時世、元であっても官僚が協会と関係を持っていたとなれば、懲役の年月は増えるだけだぜ?」

「ナッ……!? 何故俺のことを知って……いや、そんなことはどうでもいい。カマエルッ! 奴を殺せ! 所詮は人間だ、敵う筈がない」

 佐藤は、非常に傲慢だ。何の疑問も思わず、ただ目の前の危険因子を殺すことだけしか脳内にない。音も無く、鍵もかけていた部屋に侵入できる人間に、何の警戒心も持たずに命令する彼を、醜く思う。

 彼も所詮は協会のモルモットであり、堕落化の犠牲となった被害者の一人だ。ソロモンはとある策で手を打つことを内心で決意する。

「……まずは、お掃除か。【殺戮と劫火の魔豹フラウロス】」

 ソロモンがそう言うと、周辺に紅蓮の劫火が燃え盛り、彼の掌に一つの炎が浮遊する。佐藤は、恐れ戦くが、笑みを浮かべる。

「クッ……だが、俺にはカマエルがいるッ! 殺せ、殺せ殺せ殺せッッ‼」

『承知しました。これより、対象の殺害を開始する』

 カマエルは細剣――天蠍の剣を構え、低い姿勢で戦闘態勢で出方を見計らう。そして、疾風のようにソロモンの方へと駆ける。

『はぁッ!』

「チッ……これだから能無しの怪物どもは……ッ! 考えろ、鉄屑スクラップ

 瞬間、カマエルの眼前に灼炎の壁が出現し、彼女を阻む。同時に、天蠍の剣が【殺戮と劫火の魔豹】の劫火によって溶解してしまう。

 そして、右手首部分も焼け落ちる。

『ッ――』

 カマエルは驚いて一歩退くが、痛覚はどうやら感じていないらしい。所詮は機械、人間とは違い、彼女は一切として動じない。

「チッ、気に喰わない面だ。俺の「悪魔」で溶かして、醜悪でまるで深海魚の様な

不細工にして殺してやりたい」

『その言葉、侮辱と捉え、貴様を今ここで、殺します』

「そうして、善悪の判断も無しに命令一つで動くテメェらが、気に喰わねぇつってんだッ!」

 ソロモンは憤怒に満ち溢れた表情で紅蓮の炎を壁のように形作り、空中に槍や剣、杭やハルバードのような武器を形成する。そして、発射。

 カマエルは隼のように速い速度で移動するが、所詮は機械。天の使途でも何でもない。大抵効率を優先して叩き潰すはずだ。正面や全方向を阻害された今、攻撃を仕掛けられる場所は――

 上だ。

「フッ、やはりそう来ると思った。殺せ、六十四番目の炎魔よッ!」

 だが、ソロモンはその動きを完璧に読んでいたかのように不敵な表情でカマエルの飛びつく方向へと視線を送り、その瞳には怨讐と嘲笑の念が込められていた。

『嘘……ッ!?』

「嘘だろって思うのはこっちだ、予想の範疇過ぎて、嗤っちまうよ。――死ね、天に帰らず、地獄に落ちろ、畜生が」

 カマエルの眼前には灼熱の炎が渦巻き、炎の剣が彼女を襲う。全身にその刃は悉く突き刺さり、内側から溶け出していく。やはりというべきか、中身は様々な機器が埋め込まれ、稼働していた。

 こんな鉄屑の集まりが、人間たちを貶めていると考えると、本当に虫唾が走る。カマエルの身体はもう醜悪以上の何かと成り果てていた。

 四肢は完全に溶け落ち、まるで達磨のようになっていた。手も足も出せないカマエルは、最後の足掻きを魅せる。

 彼女の姿が突然、消え去っていく。まるで、

「チッ――物質透過か。まぁ、それも織り込み済みかな?」

 ソロモンがそう言うと、彼は突然タブレットを取り出し、【刹那を切り裂く魔王の右腕】を開く。

 そして佐藤の胸倉を持ってマンションの外へと瞬間移動する。外へ出て、高く聳え立つ高層マンションビルを見上げつつ、一言。


「よし、焼くか」

 ソロモンは再び【殺戮と劫火の魔豹】による紅蓮の劫火を出現させ、炎の竜巻を二つ生成する。彼は跋扈する人々に構わずそれを高層ビルにぶつけ、ビルはいつしか灼熱と爆炎に包まれ、燃え盛る。

 恐らく中には多くの人々がいるはずだ。それはソロモン自身理解している。だが、これは「天使」を確実に殲滅するための必要な犠牲なのだ。たとえ多くの人間の身体を生きたまま火葬したとしても、彼は己の犯した過ちを過ちを思わないだろう。

 ソロモンは燃え盛るビルを尻目に、佐藤の方を振り向く。

「さて、お前の居場所と肝心の戦力は消え去ったわけだが、お前は裁判に出す。いくら手を汚したのは「天使」だとしても、貴様は創造神協会との関係もある。相応の罰は受けてもらおうか」

「な……あ、あぁ……や、やめてくれ……殺さないでくれぇ……!」

 震えた声音で命乞いをする佐藤。自分の住居と最強だと思っていたカマエルを一方的に蹂躙された。当然殺されるという結論に至るだろう。

 だが、

「お前は殺しはしねぇよ。同じ人類として、情けはかけてやる。だが、テメェには永遠の罪業を償う必要がある……さーて、そろそろ警察が来る頃か……じゃ、俺は帰らせてもらう」

 ソロモンは佐藤に背を向け、去ろうとしたその瞬間、佐藤は手を伸ばす。

「ま、待てぇ! き、貴様は何者なのだ!? そんな力を振るう者など、「天使」しか……!」

 直後、ソロモンは再び振り返り佐藤の胸倉を掴み、殺意を込めた低いトーンで、

「俺をあんな畜生どもと一緒にするな。俺はあいつらとは違うと痴れ。俺は――いや、俺たちは……」

 胸倉から手を放し、タブレットで再三【刹那を切り裂く魔王の右腕バティン】を発動し、瞬間移動の方陣が展開される。そして去り際に、こう告げる。


「最悪な「天使」どもを殲滅する……「悪魔」だ」

 

 

 

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