智天使長ゼルエル討伐編
Chapter 1;幹部作戦議論
「これより、アデックの
アデックの本拠地である魔術王の古城の最上階――円卓の間にて、十二人の男女が席に座り、真剣な表情である方向を向いていた。
その視線の先にあるのは、誕生部席に座る黒髪で乱れた短髪の青年の姿であった。彼は何処か冷静な表情で話をしていた。
「まずは、ゼルエルの情報だ。正直、奴の情報はほとんどない。知っているとすれば精々、名前と潜伏地域の大まかな情報程度だ」
青年――ソロモン・リュースレスは、溜息を吐いて右手に持った資料を机に置く。「天使」の殲滅――それこそアデックの目的であり、使命だ。
そして現在、彼らアデックの中枢らは、「天使」の中でも強力な部類に入る智天使の殲滅作戦の会議をしていた。「天使」にもランクが存在しており、ランクが上昇することによって値段も性能も破格となる。上から三番目のランクを誇る智天使の中でも、それらを統括する「智天使長」の座に君臨する兵器。
だが、そんな智天使長…ゼルエルの情報は、ソロモンが言っていた通り、あまり存在しない。その存在くらいがまともな情報で、どんな特殊能力や機能、外見なのかの詳細な情報は一般のネットプールには存在しない。
だから、どれほど強力な力を持っているのかも、未知数なのだ。
「それに関してなら、あたしの特殊諜報室で何とかしますからー、多分大丈夫だと思いますよー」
空色の短髪に、眼鏡をかけた少女が挙手をして意見を申し立てる。彼女の名前はアモン・ル・ノーレッジ。アデックに点在する情報収集専門の部署で、室長を務めている幹部の一人で、彼女と彼女の率いる特殊諜報室の諜報員の腕前は確かなものだ。信用に値する。
「そうか……ではアモン達諜報室の人間は会議後、即座に情報収集に移り、目ぼしい情報があれば即刻指揮官ないし俺に連絡してくれ」
「了解でーす」
アモンは何処か気の抜けた声で返事する。ソロモンは軽く咳払いをして、話を戻す。
「では、詳しい情報が無い今、どういった作戦で敵機を殲滅するかが肝なわけだが……相手は狂信者どもが創り出した、恐らくお気に入りの「天使」やもしれん。その時に備え、遊撃部隊と潜伏による狙撃、もしくは「悪魔」による遠距離支援部隊、「悪魔」による非物理的攻撃部隊と物理攻撃部隊による複合編成を組み、後方による的確な指示と遠距離支援や医療班を多く兼ね備えた後衛部隊という風に分けたいと考えているが……貴様らの意見を聞こうじゃないか」
彼の戦略は、妥当と言えば妥当な部類だ。遊撃部隊を配属してゼルエルの隙を突く。更にその保険として潜伏構成員による攻撃を仕掛ける。「悪魔」には特殊な能力が多く搭載されており、それに関しては「天使」を凌駕するものもある。それに加算して物理攻撃を仕掛ければ、確実に倒せるだろう。
そして後方には比較的強い構成員を多く配属し、最後の砦として指揮官を守護する。軍事関係の仕事についていた人間であれば、誰でも思いつく様な策略だ。
「はい」
艶美な声音を上げて挙手するは、真紅のウェーブがかった長髪の美少女であった。
「キアー、どうした?」
「私たち斥候部隊を派遣するのはいかがでしょうか? 偵察という名目も兼ねて少人数を向かわせるのです。詳細な位置情報は、アモンに一任するということで」
彼女――サタナキアは、提案を皆に告げる。斥候を向かわせる選択はそう悪くはない。諜報員だけでの遠距離の情報収集では明確な情報を逃す可能性もある。
であれば、構成員が一般人に扮して情報を入手した方が正確さが増すというものだ。
「ふむ、妥当な案だな。ではアモンの率いる特殊諜報員とキアーの精鋭斥候部隊で協力して情報を収集することでいいか?」
『異議なし』
全員、口を揃えて肯定を示す。だが、今のところ情報に関する話しかしていない。ソロモンは手を組んで話をする。
「では次、指揮官の決定とその他部隊の隊長などを決定したい。誰か立候補はいないだろうか? もしくは推薦でもいいが……」
だが、挙手する人間が一人もいない。アデックの人間は基本的に忠誠心が高いが、同時に内気な性格の人間が多い。「悪魔」を扱う人間たちは基本的に傲慢で怠惰な一般人のように威張っているわけではなく、寧ろそういう奴らを憎む側の人間が殆どだ。
だから、自分から立候補したりすることは滅多にない。こういった事態は珍しくは無いが、たまには勇気を振り絞ってほしいものだ、と思いながら……
「ならば、俺の恣意で決定して構わないな? ……よし、では指揮官と後衛部隊隊長は、アスタロトでいいか?」
唐突に名前が話題に出て、一人の少女が立ち上がる。桜色の髪、片方縛っているロングヘアーの微笑が、驚愕していた。
「え!? わたしでいいんですか!? でも……正直、自信が……」
彼女の名前はアスタロト・ディスペル。幹部の一人でソロモンの近侍を務めている「悪魔」遣いだ。
彼女は少し不安げに俯きながらモジモジしていた。
「大丈夫だ。俺は貴様を――否、アデックの同胞たちを信用している。アスタロト、お前は俺の懐刀にして幹部でも最強クラスの「悪魔」を保有している。それを理解したうえでの判断だ。安心しろ、お前の努力は俺たちが一番理解している」
ソロモンは優しく微笑みながらアスタロトを励ます。彼女は非常に努力家で、日々「悪魔」を使いこなせるように勉強し、参謀を担うことを想定して数々の戦略書や戦闘に向けて様々な訓練をしている。
そして何より彼女はソロモンの側近だ。傍でソロモンのカリスマ性に溢れた指揮を見てきた彼女であれば、指揮も、戦闘もお手の物だろう。
「そ、それなら……はいっ! 謹んでお受けします!」
アスタロトは勇気を振り絞ってソロモンの提案に応諾する。
その後も、会議は恙無く進み、前衛部隊の隊長、遊撃部隊の隊長、潜伏部隊の隊長と、着々と話が進んでいく。そして、会議の大体の話は終わった。
だが、この会議で決定した配属はあくまで暫定的なモノであり、ゼルエルの情報によっては作戦を変える可能性がある。寧ろそっちの方が可能性は高い。
最後に――
「悪いがバアル、お前にはケルベロスの大量製造を依頼したい。相手は未知数の「天使」だ」
そして金髪の仮面を被った男に依頼をする。直後、下卑た笑みで呟く。
「徹底的に、な?」
「分かったよ! 僕の配下と僕の最強の頭脳と腕で、一万個製造して見せるよ!」
金髪の男――バアル・レージャスティは歓喜しながら快諾する。彼は数々の兵器を製造しており、今までも彼の兵器によって「天使」を撃滅してきた。
「期待している。では、これにて
『天に悪魔の断罪を――ッ!』
アデックの合言葉を復唱し、全員円卓の間を後にする――各々様々な目的を持ちながら自分の持ち場へと帰っていく。
「さーて、今日から徹夜だー。キアー、悪いけどこっちの情報収集に付き合ってくれないかなー?」
アモンは伸びをしながらサタナキアに間の抜けた懇願をする。サタナキアは「いいですわよ」とお嬢様口調で応じ、円卓の間を出ていく。
そして円卓の間にはアスタロトとソロモンしかいなくなった。
「あの、ソロモン様。わたしを推薦していただき、有難うございます! わたし、絶対に頑張るのでっ!」
「そうか、期待しているぞ。俺たちは「天使」を殺さなければいけない……絶対に、だ。その為には、全身全霊で、殲滅するしか他ない……ッ!」
ソロモンは憎悪を露わにして、拳を握り締める。
彼らアデックの人間は「天使」を憎んで、加入している。それ故、天使長を殺せる機会があるというのが、喜ばしくあるのだ。
ソロモンも例に洩れず「天使」に憎悪を向けている。自分自身、「天使」と「天使」を製造する人間たちに対しての怨讐だけは、誰にも負けないと思っている。
だから――この手で――もしくは同胞たちの手で、「天使」たちの心臓を、天を翔ける翼を、正義を騙る歌声を、跡形も無く――――
消し去ってやる。
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