第29話 全額返済

 そのうちの1人、キザな男がナーニャと葵の姿を見てにやりと笑う。それはメイド服がどうのという事ではなく、ただ足が見えていることに喜んでいるだけだった。


 だが、勝吾の姿を見つけ、あからさまに嫌な顔をした。


「おい、今日は金の話だ。しゃしゃり出てくんなよ」


忠告とも、怯えからくる虚勢とも取れる言葉で勝吾をけん制した。


 サンディラは一部の隙も見せずに、待ってな。と言い残し金を取りに奥へと消えた。


 その後ろ姿を見送った4人の男子高校生たちは、顔を見合わせて頷きあう。そして代表として勝吾が話す。


「俺もお前らに金の話がある」


「あぁん? 金の話? なんだ、お前も俺から金を借りるのか?」


 その言葉は不正解。


「全額返済だ」


 そういって金の詰まった袋を差し出した。


「な――」


 戸惑った声を上げるが関係ない。


「ほら、利子も含めて全額を返すんだ。お前らも数えるの手伝え」


 勝吾が空いているテーブルに座る。その行動に戸惑いながらも、金の回収は蔑ろにできない事情。男たち3人は顔を見合わせ、スキンヘッドの男が代表でテーブルに付いた。


「どうやって、こんな金を稼いだ?」


 キザな男が心志に聞いた。


「まぁ、色々売ったんで」


 適当だった。あまり詳しいことを教えても良いことはないだろう。誤魔化せるようならそれで問題ない。


 明らかに納得していないが、見なかったことにする。しかし、もう一人納得していない人物がいた。


「ねぇ、ちょっと待って。なんで心志たちがウチの借金返してるの!?」


 今までスカートの丈を気にしていたナーニャが、そんなことを忘れたかのように心志に掴みかかる。


 それは怒りではなく驚き、何故なのか理解できないという戸惑いから来るものだった。


「僕たちは2人に助けられたし、今も助けられてる。だから今度は僕たちが助ける番なんだよ」


「でも、だけど」


 何か言いたいが言葉が出てこないナーニャ。その間にも勝吾たちは金を数えていき、ついに数え終わった。


「借金は完済だな」


 勝吾が言うと、男たちは持って帰って行った。しかし、心志は男たちが小さく舌打ちをしているのを聞いてしまった。


(借金の返済をされて舌打ちって)


 多少不安に思ったが、嫌がらせをする相手が居なくなったことに対する舌打ちだろうと判断した。


「あれ、アイツらはどこ行った?」


 奥から金を持って戻ってきたサンディラは、男たちがいないことに気付いた。そして、帰った事とその理由を聞いて怒った。


 子供に借金の返済を任せた覚えはない。そう言い放った。それは大人としての譲れない矜持、簡単には認めたくない思いがあった。


 それから30分程、割と本気でもめた。


 サンディラとしてはどうにも腑に落ちない状況なのだった。ナーニャもどうしてよいのかを考え、完全に蚊帳の外になったリリとカランがいた。


 そして、返した金を再度返せと言っても、男たちに弱みを握らせるだけだろう。そんな話の末に、サンディラがある提案をした。


 借金は返済ではなく肩代わり、故に今後は心志たちに返済していく。これは絶対条件で、サンディラは譲らなかった。


 無論、心志たちは金はいらない、別の世界から来た自分たちに食べる所も与えてくれた礼だと伝えたが、頑として受け付けなかった。


 それならばと、今後の生活費の代りという事で手を打った。


 その様子を見ていたナーニャは、全ての話が終わると安心したようにため息を吐く。


「よかった」


 その言葉には、今までの色々な事から解放されたという安堵も込められていた。

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