第28話 3年分
写真を参考に、グッズの売り上げで布を買い縫製。メイド本来の奉仕ではなく、あくまで可愛らしさを売りにしたメイド服を2着作った。
1着は葵が着ることになり、もう1着はナーニャに着てほしいと頼んだ次第だった。
「そんなの着たって、人が集まるかなんてわからないじゃない!」
「流行る! 絶対に、流行る! メイドという存在は男の憧れ。おかえりなさいませ御主人様と言われて悲しむ男などいないッ!」
断言する敬輔にたじろぐナーニャ。
「そういうものなの?」
彼女のその言葉は誰に向けられたものではなかったが、カランが反応した。
「カランの経験上、確かに男性はカランがお酒を注いだりした場合にとても鼻の下を伸ばしております」
「いったい誰? そういったのが好きそうなのは、サライン
リリは呆れながら候補を上げた。思い当たる人物は確かにいるらしい。
「旦那様です」
「………………は? お父様?」
「はい、お嬢様に不安を与えてはいけないかと思って黙っておりましたが」
厳格だと思っていた父親の知りたくない行動を聞いてしまった事に後悔しながら、顔をしかめる。
「とりあえず聞くけど、おかしなことはされてないのよね?」
「お嬢様が考えているようなことはされていません」
それを聞いて一応は安心した。しかし、なんだか気に食わないのも確かだった。
「お母様に報告はしておきましょう」
今夜は夫婦喧嘩でも始まるだろうが関係ない。娘の従者二色目など使う方がいけないのだ。
微かに悪い顔で笑うリリ。だがそれを全員に見られていることに気づいて、笑ってごまかすことにする。
「すみません皆さん。確かに男性には魅力的に映る見たいですよ?」
ぎこちなく笑う彼女に対し、深く事情を聞く事を躊躇った心志たちは無理やり話をそらした。
「じゃ、じゃぁ。やっぱりナーニャにも着てもらわないとな」
勝吾が言うと、ナーニャも頷いた。
「試しに1回くらいなら着てみようかな」
そう言って葵からメイド服を受け取り、2階へ消えていく。
着替えが終わるまでの間、話題は日本円を売ったことについてになった。
「で、誰になんて言って売ったんだ?」
勝吾がカランに聞くと、彼女はにべもなく答えた。
「誰も見たこと無い、珍しいものが大好きな貴族様に売りました。見事な細工でしたが、見事過ぎたので言い訳に苦労しました」
そこで一呼吸。
「あのような緻密な細工を誰も見たことがないと言うのは、いかにも怪しいので、世に出す前に死去した若き天才という設定を加えておきました。なので、これ以上新作は出ず、現存するものしか無いと言ったので、喜んでおられました」
確かに、作者が死亡しているといえば新しいものが必要になることも、作者に会いたいがために探し回られることもないだろう。
作者死亡という付加価値を得たことで、より高値で売れたらしい。
なるほどなぁ、と勝吾や心志が感心した。
「ちなみにこの金額は、市民の年収3年分です」
「「「「え?」」」」
一生懸命働いて得られる3年分を手にしてしまったらしい。だが、この大金の使い方は既に決まっていた。
「借金返しても余るんじゃない?」
「かもな。どっちにしろ残りは生活費だな」
「生活費でも余るようなら、メイド服を豪華にしよう。フリルも良いしゴスロリもいいな」
「欲望丸出しじゃない」
彼らの使い道、それはユリスが抱えている借金の返済だった。具体的な借金額を知っている訳ではないが、市民の年収3年分であれば足りないという事はないだろう。
「なるほど、借金の返済ですか」
私利私欲で動いてもおかしくない年齢にも関わらず、随分と堅実な生き方をするのだな。と関心を見せるカランだった。
それから少しすると、2階からナーニャが降りてきた。
モジモジとスカートの裾を気にしながら、心志たちの目の前までやってくる。
「ねぇ。ホントに恥ずかしいんだけど」
「そう? 似合ってると思うけど」
葵が下から上へと眺める。
メイドの格好をした葵とナーニャの2人が並んで立つと、完全にメイド喫茶として成り立つ雰囲気があった。
「悪いけど誰かこっちを手伝ってくれるかい?」
サンディラが厨房から顔を出しそういうが、自分の娘の服装を見ると微笑んだ。
「なんだい。随分と似合ってるじゃないか」
「変なこと言わないで」
「変じゃないさ。それで給仕をしてごらんよ」
ううぅ。っと唸るナーニャ。
あと少しで落ちるだろうというと言う所で邪魔が入った。
「今月分の借金を返してもらおうか」
その言葉とともに、いつぞやの借金取り3人が入ってきた。
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