第27話 メイド

 それから1週間後。


 昼前にユリスにやって来たカランとリリが、大きめの布袋を心志たちの目の前に差し出した。


「これは?」


 心志が首をかしげながら受け取ると、明らかに重くジャラジャラと音がした。


「重ッ!」


 空いているテーブルに袋を置き中身を確認する。そこには硬貨と紙幣が詰まっていた。価値がいまいち解らないが、どう考えても大金だろう。


「マジで?」


 心志はどういうリアクションが正しいのか戸惑った。カランから渡されたということは、日本円を売った事で得た金だ。それがこんなに化けるとは。


「おぉ、結構な額になったんじゃないか?」


 いつの間にか現れた勝吾が、袋から硬貨を取り出して笑った。


「助かったぜ。これで何とかなりそうだ」


 カランに向けて言うと、彼女は緩く首を横に振る。


「カランの方こそ良い資産が出来ました」


 300円が資産になるというのは日本では聞かないワードだが、互いに納得できた商談らしいので問題はない。


「あの、ナーニャさんたちは?」


 リリの目的はナーニャに会うことなので、そわそわと視線を彷徨わせた。


「ナーニャならいるけど、今はちょっと手が離せないかな」


 どうにも歯切れが悪い感じの言い方をする心志。リリは、何があったのかを聞こうとした時、2階からドタバタと音がした。


「無理!! 絶対に無理だから!!」


 階段をかけ降りながら拒絶を叫ぶナーニャ。その後ろを葵が追いかけているのだが、その恰好にリリは目を奪われた。


 黒と白のエプロンドレス。スカートの丈が極端に短いが、それは間違いなくメイド服と呼ばれる代物だった。


「カランの服と似ていますね」


 こちらのスカートは足首まで完全に隠れるスタイルだ。それは主に仕える淑女という在り方を示していた。


 1階まで降りてきたナーニャは、リリの姿を見つけると笑顔で駆け寄った。


「リリ、来てくれたんだ」


 逃げることより、友人の訪問の方が嬉しいらしい。そんな態度を取ってくれるナーニャに感涙を流すリリ。


「勿論です。ナーニャさん」


 そう言って互いに手を取り合う。


「再会を喜んでるところ悪いけど、ナーニャにはこれを着てもらうからね?」


 笑顔の葵がナーニャの方に手を置いた。


 その瞬間、素早くリリの背中に隠れて無言の圧力で威嚇した。


「お店のためだよ?」


 それはナーニャにとって否定は絶対にできない言葉。だったが、


「そんな恥ずかしい恰好は絶対にできないから!!」


 こればかりは譲れないと断言された。


「あの、アオイさん。その衣装はどうされたんですか?」


 リリが葵のメイド服について聞く。


「前に敬輔がカランさんの写真を撮ったでしょ? その時にメイド服で給仕をしたら人気が出るんじゃないかって話になって、実際に作ってみたの。少しアレンジを加えてるけど、カワイイでしょ?」


 その場でクルリと回転する葵。スカートの端が微かに持ち上がり、太ももがあらわになる。


「確かに可愛らしいと思います。しかし、欲情を誘ってはいけません」


 本物のメイドであるカランに言われると、ぐうの音も出ないのだが、日本のメイドという文化は少し違う事情がある。


「メイド本来の在り方は従者的な役割だが、日本のメイドは根本的に違う。日本のメイドは、あくまで妄想の中のメイド! カワイイ女の子に優しく奉仕してもらいたいという男の欲求が具現化した産物なんだ!」


 そう説明したのは当然敬輔だった。カランの姿を写真に収めた日、メイド喫茶の話になった。この世界ではメイド喫茶は無いがメイドは居た。そうなればメイド喫茶がもつ可能性に至った。

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