第23話 うぜぇ
4人の財布と現金、そしてアニメグッズ。その品を並べただけで人は寄ってきた。物珍しさから序盤の人の集まりは良かった。
この世界にも財布はあるが、現代日本で売られているようなデザイン性に凝ったモノではなく、いわゆる巾着であった。そのため、金を入れるものにこだわる必要もない。と言われ、売れなかった。
中身の日本円にしても、確かに精巧な作りで綺麗だが、こんなの買ったら妻に叱られる。と一蹴された。
そして何よりも、アニメグッズが見向きもされなかった。アニメがないのだらかキャラクターというものが理解されない。絵画はあっても印象主義のようなリアルな絵が主流らしく、デフォルメされた少女の絵は大人には受けなかったのだが、奇跡が起きた。
父親と一緒に居た少女が、クリアカードを手に取り凝視していた。
大人にウケるのは印象主義でも、子供は違う。自分で絵を描けば自然とデフォルメされた感じの人物画になる。それと近い雰囲気を持つアニメキャラクターというのは案外にウケた。
欲しいとねだる子供に根負けした父親は、金を払いクリアカードを購入した。1人が買えば、近くにいた子供にも伝播する。
本命はあくまでも、高値で売れそうな財布。敬輔には悪いがアニメグッズはオマケ程度に考えていたのだが、結果はアニメグッズが4割売れるだけという微妙な結果になった。
「で、売り上げはいくらくらいだったのさ?」
心志が最終的に聞きたいのはそこだった。
「日本円に換算すると2万弱くらいだな。そんで、食費やらで迷惑をかけてるからサンディラさんに全部渡そうとしたら突き返されちまってな。とっておけって」
いきなり4人の居候ができて余裕があるわけがない。少額でも渡せれば良かったのだが。
「そっか。まぁ、物を売っての資金調達はメインじゃないからね」
日本の知識を使って、店を繁盛させる事が目的なので、今は納得するしかない。
「敬輔にも感謝しなきゃね」
葵もそう言って喜んだ。
一部始終を聞いても特に涙は出なかったが、大変だったのは伝わった。
すると、しっかりと働いていた敬輔が心志たちの帰宅に気づき、
「帰ってきてたのか」
と、どこか穏やかな
(何があった)
今まで見たことがない友人の顔に心志は動揺を隠せない。泣いていたようだが、何が悲しくて泣いていたのだろうかと考える。
「勝吾から話は聞いたか? 俺の元から旅立っていった彼女たちは、新しい家で元気に暮らしているだろう」
(なんだよ。グッズが手元から離れたから泣いてたのかよ)
ため息を吐いた心志に対し、敬輔は憐みを持って接する。
「君は、大切なものとの別れはあるかい? 別れの言葉を告げることも出来ず、悲しい思いをしたことは?」
(ウゼェ)
苦虫を嚙み潰したようになるが、悟りを開いた男は強かった。
「君にも解る日が来る」
合掌し軽く頭を下げて去っていく。
(((ウッゼェェ)))
心志、勝吾、葵が同じ表情で敬輔を見つめ、ナーニャとリリは不思議そうに首をかしげていた。
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