第22話 売れるのか?

「日本って、何なんだろうな?」


 地球にいた頃であれば、ずいぶん哲学的な事を言い出したと思うところだろうが、今は違う。


「どうした。売れなかったか」


 心志のセリフに勝吾は大きくため息を付いた。


「あぁ。全滅……いや、売れたものもある」


 別のテーブルに積まれた荷物。パッと見ただけでも減っているようには見えない。


「ところで、誰だ?」


 勝吾はナーニャ、心志、葵を通り越してリリに向いた。


「失礼いたしました。わたくしはリリと申します。先ほど道に迷っていたところを皆さんに助けていたんです」


 なるほどな。と頷く勝吾。すると、厨房からサンディラも顔を出した。


「帰ってきたのかい?」


「ただいま。この子はリリ。道に迷って大変そうだから連れてきた」


「そうかい。急いでないなら、ゆっくりしていきな」


 それだけ言うとサンディラは再び厨房に戻った。


 問題がないという事だったのだろう。それはナーニャにも通じたらしく、気に留めることもなかった。


 ナーニャをはじめ、心志、葵、リリは椅子に座る。


「ところで敬輔はどうしたの?」


 葵は辺りを見ながら敬輔がいないことを勝吾に聞いた。


「あいつなら」


 と指で指す方向は厨房。その奥から料理を運んでくる敬輔がいた。しかし彼の目元は、泣いた後なのか微かに赤いのだが、表情は異常に穏やかだった。


「なんだ、あれ?」


 心志が聞くと、勝吾は重々しく一部始終を語りだした。




 ナーニャたちが市場に向かってすぐ、勝吾も動き出した。


「さて、準備するか」


 心志、葵から預かった荷物を確認する。


 荷物が限りなく少ない2人。携帯はバッテリーがなくなれば使えず、そもそも使える機能が写真くらいしかないので流石に売りようがない。冷静に考えれば、ハンドクリームなども使いかけなので売れないだろう。しかし、財布本体は高値で売れると踏んでいたし、中身の日本円も売ろうと考えた。


「持ってきたぞ」


 ふいに後ろからかかった声に振り向くと、敬輔がアニメグッズを抱えて立っていた。


「厳選したか?」 


 流石に自分の大切なグッズを全て出せとは考えていない勝吾は、とりあえず売ってもいいと思えるものだけを厳選するように言って、持ってきてもらったのだが彼は首を振った。


「厳選はしてない。全部売ってくれ」


 己のグッズを全て差し出す敬輔。その中にはヴィーナのフィギュアも入っていた。


「お前、良いのか? こっちの世界にいる限り2度とフィギュアに出会えないぞ?」


「かまわない。少しでも金になれば――」


 買われていくグッズを想像し、目頭に涙を浮かべる敬輔の肩に手を置き慰める勝吾。


「お前の覚悟は受け取った。あとは俺に任せろ」


 力強い眼を持って勝吾の戦いが始まった。


「でも思うようにいかなかった、と」


 熱い話を聞かされていたが、オチを聞いた後ではネタばれ以外何でもない。


 心志のツッコミに勝吾は目をそらせて舌打ちをした。


「そんなに人気なかったんだ」


 葵が首をかしげると、勝吾はため息を吐きながらボヤく。


「予想はだいぶ違ったな」

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