第21話 リリ
「もう、大丈夫です」
2人のフォローのおかげか、何とか立ち直った少女は立ち上がり礼を告げた。
しかし、葵の心配は続いている。
「道に迷ってるんでしょ?」
最初に言っていた、帰り道が聞きたいだけというセリフを彼は覚えていた。
少女も首を縦に振る。
「はい。色々あって」
色々って何だろう?という疑問を持った心志だが、質問する権利は自分にあるのだろうかと考え止めた。
「私なら道が解ると思うよ?」
この中で唯一道が解るナーニャが言うと、少女は首を横に振った。
「あの、図々しいお願いがあるのですが、わたくしと遊んでいただけませんか?」
あれ、帰り道は? と思う心志だが、やはりそれも心の中に留めた。
「私は別にかまわないけど、帰らないと不味いんじゃないの?」
ナーニャが聞くと、それにも首を横に振った。
「まだ、時間に余裕がありますから、よければ」
それなら。と納得したナーニャは葵と心志を見る。
「私たちも良いよ」
ね。と心志を見る葵。
「はい」
と短く返事をして了承した。
すると少女は、パァっと表情を明るくして喜んだ。
「ありがとうございます! わたくし、行ってみたいお店があるんです」
「お店に行く前に名前、聞いてもいい?」
葵が尋ねると、彼女は姿勢をただしてから、
「わたくしは、エ……えーっと、【リリ】と呼んでください」
自分の名前で悩む時点で偽名なのは明白。本人も目を泳がせながら冷や汗を流して
いる。
ナーニャは気にしていない風だが、心志は気になる。一応葵の方に視線を送ると、彼も苦笑いを浮かべてはいるが、目は聞いてはいけないと告げていた。
「私はナーニャで、こっちがアオイ、こっちがシンジ」
「ナーニャさん。アオイさん。シンジさん」
名前を1度ずつ口ずさみ、元気になったリリに引っ張られる形で様々な店を見て回った。
数時間のウィンドウショッピングを経て、疲れ切った4人は1度帰ることにした。
4人はゾロゾロと歩き、店に戻ってくる。
「ユリス?」
リリが店の看板を見てつぶやいた。心志たちも最近になって、
「そう。料理店」
店内には4人だが客の姿がり、やはり客入りは少ない。
「……どうしたの?」
ナーニャが眉間に皺を寄せる。その目線の先には両肘をテーブルに付き、手を合わせるように組んでいる勝吾がいた。
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