第20話 追う女
「そんなに慌てなくても」
と、ナーニャから声が上がり、
「気にし過ぎじゃない?」
と、葵からも言われたが、心志は聞き入れなかった。
人から追われている時はどうすれば良いのかと考え、曲がりくねった道に入り角を曲がり続けることで撒けるのではないかと考えた。
「ナーニャさん。このあたりで、変わった商品を扱ってる見せとかないですか?」
普通ではない奇抜な商品を扱っている店などは、表の通りを避けて裏通りに店を出すのではないかと思い聞いてみた。
「それなら、そこの通りの裏にあったかも」
心志は小さくガッツポーズをした。日本でもこの世界でも、尖った作品を扱う人の考え方に違いはなかったようだ。
言われた通りに入り少し歩く。心志は恐怖に怯えながらも後ろを振り向くと、先ほどの少女が通りの入口に立っていた。しかし通りに入るとは思っていなかったのか、見失ったらしく辺りに視線を彷徨わせていた。
(そのまま気づかないでくれッ!!)
心の中で叫びながら見つめていると、ゆっくりと顔が向けられた。そして2つの目が心志たちを補足する。
微かに笑ったような口元を作り、歩いてくる。
本当に一瞬息が止まった。肉食動物に見つかった草食動物。または不良に目をつけられた気弱な少年。例えるとキリがないほどの劣勢な状況。そして、その状況で残された道は逃げるか戦うか。
窮鼠猫を嚙むという言葉を思い浮かべながら心志は逃げた。勿論1人で逃げたのではなく、目の前にはナーニャと葵がいる。
何かあれば自分が犠牲になろうとは
こうなれば、一刻も早く通り裏にあるという店にたどり着き、店内に逃げ込む事にする。
「そこを曲がれば」
ナーニャの案内で辿り着いた店だったが、
「閉店してる」
扉は完全にしまっており、張り紙がしてある。
やはり尖った品物を扱う店は、客層が定着しなければ潰れるのはどの世界でも同じらしい。
逃げ場が失われた今、次の手を考えるがどうにもならない。何故なら後ろには捕食者が立っているからだ。
(完全に追いつかれた)
色々と覚悟を決めて少女と対峙する。少女は少し俯いているため、前髪で表情が見えない。しかし、口元は先ほどまでと同じく笑みが有った。
「何か用ですか?」
心志が問うと、ゆっくりと顔を上げ一言。
「なんで逃げるんですか! ただ帰り道を聞きたかっただけなのに!!」
そう言って泣き崩れた。
「泣かせた」
「だから気にし過ぎって言ったのに」
ナーニャと葵からの非難が背中に刺さる。どうしたらいいのかと思い、取り合えずしゃがみ込み、謝罪を口にする。
「すみません。僕、何か勘違いしていたみたいで」
少しすると泣き止み、明らかに落ち込んだ雰囲気で話し出した。
「良いんです。どうせ
負の連鎖が渦巻く少女の言葉。心志は自分の今までの行動を恥じて押しつぶされそうだった。
「えへへへ、もういいんだぁ。
いつの間にか少女は闇に落ちていた。
「ホント、ごめんなさい。帰ってきてください!」
帰ってこいと言いながら少女の肩を揺さぶる。
その様子を見ていた葵とナーニャがフォローに入る。
「ゴメンね。彼には後でキツく言っておくから」
「男性はガサツなものだから気にしない方が良いよ」
もう何も反論できない心志は言われるままに受け入れた。
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