第19話 まさか

 自室に戻り出かける準備をしてから、市場にやってきた3人。彼らの目的は買い物ではなく調査であるため、楽しくというよりも真剣に商品を見ていた。


「ここは食器類を売ってるお店」


 ナーニャの案内で生活必需品の店や本屋や服屋などを順番に巡っていた。


 4件目の店を出て、次は薬屋に向かうために通りを歩く。相変わらず人通りも多く店はどこも賑やかだった。


 しかし、前方の人通りに違和感が有った。


「おっと」


「すみません」


「大丈夫?」


「すみません」


「気をつけろ」


「すみません」


 次々と人にぶつかる人物がいた。髪が長く背が小さいことから少女と思われるのだが、どうにも動きが悪い。見る人によっては病気でふらついているようにも、ドン臭いと評されるようにも見える。


 だが心志には、


(財布をスッてるんじゃ?)


 という疑惑が浮かんでいた。


 わざとぶつかり、その衝撃で財布をスッた感触をごまかす。その技術が本当に通じるのかは判らないが、少なくともそう思えた。


 かかわらない方が良いと忠告しようと口に出す前に、少女は男性にぶつかってひっくり返った。


 その光景に動いたのはナーニャだった。彼女は手少女のもとに駆け寄り、手を差し伸べた。


「立てる?」


「はい。ありがとうございます」


 差し出された手を握り、立ち上がる。


 心志は若干ハラハラした気分でその光景を見ていた。その表情を気取られたのか、葵が耳打ちをする。


「どうしたの?」


「いや、なんていうか。あの娘さっきから人にぶつかってばかりでさ。何か悪いことでもしてるんじゃないかと」


「スリとか?」


 どんぴしゃな答えにうなずく。


 そんな会話をしているうちにナーニャが戻ってきた。


「彼女、大丈夫みたい」


「そ、そう」


 財布は大丈夫かと聞きたいが、それを確認するには完全に少女を疑うしかない。それはどうにも気が引けた。


 どう伝えようかと考えていると、心志たちを見つめる少女の視線に気づいた。まるで何か獲物を狙っているかのような視線。


 ゾクリと背中に冷たいものが走った心志は、急いでその場を離れるように促した。


「は、早く周らないと時間がなくなりそうだから、早く行こう」


 てきとうな事を言いながら、ナーニャと葵の背中を押す。


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