第15話 あった

 昼食が始まると、敬輔が言っていた調味料の話になった。


「マヨネーズにケチャップか」


 勝吾も興味を持った様だった。


「でも、既にあるかもって話なんでしょ?」


 心志がパンをゴクリと飲み込んで聞く。


「マヨネーズの原材料って、卵と油と酢できるんだっけ? ……酢はどうやって作るんだ?」


 心志の疑問に葵はすぐさま答えた。


「簡単に言うと、お酢はお米にこうじをかけて何回か発酵させるの。ワインを発酵させればワインビネガー。ビールを発酵させればモルトビネーガーになるの」


 それを聞いて敬輔は納得した。


「酒があればってそういう意味だったのか」


 そして料理人のサンディラも、何かに気づいて話に入ってきた。


「話を聞く限り、そのマヨネーズってのはこの世界にもあるよ」


 そう言って厨房に行って帰ってくる。そしてテーブルに置かれたのはオレンジ色のクリームだった。


「こっちじゃマヨネーズに色の付いた野菜をったものを混ぜるのさ」


 心志たちはパンにソレを少しつけて食べてみる。


 ねっとりとした油分と、微かな酸味。塩味を感じながらも野菜の青味もある。確かにこれはマヨネーズだった。


「見事にマヨネーズだな」


 敬輔の一言でマヨネーズ議論は終わった。


 一同は昼食を終え、色々と相談を始めた。


「私が思うに、地球の料理の再現より、こっちの世界の料理をアレンジしたほうが受けると思うのよ」


 葵は、店で出す料理で貢献しようと知恵を絞っている。


 彼の言い分では地球の、日本の料理がどこまで受け入れられるかがわからないので、現在店で出している料理のアレンジを提案した。


「最初の物珍しさはあっても、味覚的に合わなければ2回目3回目にはつながらない。なら、少しのアレンジでちょっとの珍しさと、美味しさを提供したほうが良いと思うんだよね」


 異世界からの転移、という事象が民衆に知れ渡っていない状況から考えるに、葵の判断は正しいといえた。


 慣れない食べ物を受け入れるのは時間がかかる。未発達の文化であるなら挑戦出来たろうが、完全に出来上がっている文化なら、安定した味に料金を払ってしまうだろう。それではいけない。


 そのことにはサンディラも首肯した。


「この辺りは王都から多少は離れてる田舎だ。食べ物の種類も代り映えはほとんどない。新しいものが王都で流行っても、それを再現しようとする料理人は殆どいないよ。つまり、いつも食べなれてる味が人気なのさ」


 それは痛手だったが、文句を言っても仕方がない。日本の知識が簡単に受け入れられないのであれば、調べるしかない。何があり何が無いのかを確認し、好まれる味や感覚を知ることが次の流行りを捉える手掛かりになる。


 一先ひとまず、この世界の流行や考え方を知る必要があった。


「「「「ということで、よろしくお願いします。先生」」」」


 心志、敬輔、勝吾、葵の4人はナーニャに教えを乞うことにした。しかし、先生役のナーニャは乗り気ではない。


「私は誰かにものを教えられるくらいの知識はないし、そういうのも苦手なんだけど」


 何とか言い訳をして逃れようとするのだが、包囲網は完璧だ。


「僕たちは恩返しがしたいんだ」


 心志のその言葉にナーニャの息が詰まる。それを合図に葵たちも畳みかけた結果、


「できる、範囲で、なら」


 ナーニャは降伏した。


 その日からナーニャによる異世界の常識講座が始まった。

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