第14話 マヨネーズ
「いやぁ、男手があると買い出しが楽だね」
サンディラは荷物を敬輔たちに任せて歩く。
市場という場所故、所せましと八百屋、魚屋、肉屋、雑貨のような店が立ち並び、威勢の良い声が満ちていた。見れば魚も野菜も、地球のものに似ているような似ていないような感じがする。
荷物を抱えながら敬輔が葵に聞く。
「なぁ葵。料理得意だったよな?」
「ある程度はね」
「じゃぁ、日本の調味料とか作れないか? これも異世界じゃ定番だ」
だが葵は、うーん、と唸って否定した。
「作れそうなのはマヨネーズにケチャップにドレッシング位だけど、似たような物はあると思うよ? 朝食にパンもあったし、お酒もあるみたいだった。つまり、発酵って存在があるわけ」
パンが膨らむのはイースト菌の発酵。酒類のアルコールも発酵が関係している。発酵は食材を変化させるためには必要になるのだが、その発酵という難しい事をやっているのであれば、調理の技術だって高いはずだ。
勿論、科学の進歩により生まれた機械が必要な調理は無理だろうが、ある程度は解決する。
「発酵とかがあるなら、発酵工程を変えたり、既存の調味料を混ぜたり工夫すれば、マヨネーズもケチャップもドレッシングも作れるんだよね」
料理に詳しくない敬輔からすれば、ケチャップやマヨネーズも自作できることにも驚いたが、おそらくこの世界でも存在するだろうということにお驚いた。
「それに、私たちがお世話になってるのは、食事を提供するレストランみたいな場所だよ? 周りを見れば屋台が並んで活気もある。同じ料理の店を開くよりも違う料理。同じ料理だとしてもアレンジを加えるのは当然だと思うけどな」
「……そういうものか」
言われてみれば、野菜や魚だけを売っているのではなく、それ等を焼いているらしい匂いも鼻孔に届く。
「料理ってのは、誰かに食べさせるためにあるんだ。だから、美味しくなりそうなものを考えて、調味料を混ぜたり食材を変えたり。その繰り返しが料理人の歴史なんだよ?」
敬輔と葵の話を聞いていたらしいサンディラが、振り返りながら笑った。
「昼ごはん用に少し屋台で何か買っていこうか」
そう言ってサンディラは1件の屋台に向かった。
「6個包んでおくれ」
「はいよ!」
何かの葉に包まれて蒸されている何か。それを購入してから隣の店に足を向ける。
こちらでは魚を焼いていた。香辛料を大量にまぶして串にさし炭火で焼く。その匂いは香ばしさとスパイシーさがまり混ざった食欲をそそられる。
初めて嗅ぐものなのだが、見事に食欲を刺激した。
そのあとにも、いくつかの食材と屋台の料理を買って店に戻る。
「悪いねぇ。ついつい買うものが多くなる」
「いえ、私たちはこのくらいしか役に立てないんで」
「オタクの知識が活かせる場所がほしい」
「おたく、ってなんだい?」
サンディラにオタクとは何かを語るのは難しい。敬輔は眉間に皺を寄せて考える。葵はそんな友人を放って置き、適当に答える。
「私たちの世界には、1つの趣味や物事対して非常に愛情を持ち、精通している人物をオタクというんです。敬輔はアニメという、この世界では恐らく役に立たない知識を持つオタクです」
「なるほどね。ならアタシは料理オタクかね!」
和やかに歩く3人。そして、店に戻ると心志と勝吾とナーニャがテーブルを囲んでいた。何かを話している感じだったが、ナーニャは母に気づくと顔を向けた。
「お帰り」
「ただいま。留守番を任せちまって悪かったね。変わったことなかったかい?」
「屋根が直ったよ」
とナーニャが告げ、勝吾が続いた。
「素人の修理なんで自信はないっすけど」
「いや、アタシたちじゃ直せもしなかったんだ。感謝してるよ」
その時、勝吾の腹が空腹を訴えた。
「いま昼食を用意するから待ってな」
サンディラと葵と敬輔が荷物を抱えながら厨房に消えた。
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