第10話 覚悟

 皆、なんとなく凄い凄いと言っていたが、ナーニャだけが気まずそうに言う。


「助けてもらったことにはお礼を言うけど、アイツらに手を出したら今後嫌がらせとかされるんじゃ」


 冷静に考えれば、貸し主に手を挙げるというのはどう考えても賢くはない。いくらクズだとしても、クズだからこそこの店に対しての嫌がらせが予想できた。


「やっべー」


 今まで勝ち誇っていた勝吾が青ざめた。


「何も気にすることは無いよ。親としちゃ娘を守ってくれたことの方が有り難いさ。本当ならアタシがやらなくちゃいけなかったんだ。悪かったね、嫌な役をさせちまって」


 サンディラは朗らかに笑い、場を和ませようとした。だが、どうしようもない空気が漂っていた。


 苦い沈黙の後、唯一の大人であるサンディラが笑った。


「もういい時間だから夕飯を作ろうかね。アンタたちもご飯は食べるだろ? 席に座って待ってな。此処は料理を出す場所なんだから期待してなよ」


 そう言ってサンディラは厨房に消えて行った。


 席に着いたからと言って何かを話すでもない。厨房から聞こえる何かを炒める音だけが聞こえてきた。


 このまま一言も無いかと思われたが、ナーニャがポツリと言葉を漏らした。


「ウチは元々人気はあったんだけど、お父さんが死んじゃってお店も上手くいかなくなって、どうにか頑張ってたんだけど、アイツらのところからお金を借りちゃったから」


「お客が全然いないのも?」


 心志が聞く。


「多分。アイツらが関わってるから皆怖いんだと思う」


 危うきに近づかないのはこの世界でも常識らしい。店に行って絡まれたりするより、最初から関わらない方が賢明だ。


(そんな状況なのに僕たちを助けてくれたのか)


 自分たちの心配で手一杯のはずなのに、訳も分からない人間にご飯まで用意してくれようとしている。


 何処かで死んでいても可笑しくない状況だったのに、今は安全な屋内に居られるのもサンディラとナーニャのおかげだ。


 このまま受けた恩を返さないのは、どう考えても納得できない。心志は友人3人に視線を向ける。どうやら全員が同じこ様な事を考えていたらしく、目が合うとすぐに頷きが帰って来た。


ならば、


「ナーニャさん、僕たちで良ければ力を貸します」


 心志の真剣な眼差しに賛同する様に、敬輔も勝吾も葵もやる気を見せた。


 だがその言葉に対し、厨房から料理を運んできたサンディラは苦笑を浮かべた。


「気持ちは嬉しいけどね。関係ない子供に助けを望むほどじゃないさ」


 温かな料理をテーブルに置き、話を続ける。


「アンタたちまで関わるべきじゃないのさ。明日、王都の方まで送ってやる。ここいらじゃ見かけないくらい頭の良いヤツもいる。できる限りの事はしてやるから、自分たちのいた世界に帰ることだけ考えな」


 大人としての言葉なのだが、それを素直に受け入れられるのであれば、彼らも学校生活に苦労したりはしないだろう。


「俺が手を出した結果だから、俺は此処に残りたい」


 それは全員の意思だった。友達を置いて帰るという選択肢がない事もあるが、受けた恩を返したかった。


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