第8話 乱入者
そこからは自己紹介も兼ねた話になった。勝吾の事、敬輔の事、葵の事、自分の事。日々の学校の話や、日本の話をなるべく分かりやすく解説した。
「大体こんな感じですかね」
思いつく事を話し終えた心志は一つため息を吐いて、背もたれに寄りかかった。
話を聞き終えたサンディラは、数度だけ頷くと娘の方を向いた。
「どうだい?」
短く問われ、ナーニャは難しい顔になった。
「良くできた物語みたい」
それはどういう反応なのだろうか。
「確かにね、でも嘘じゃないのもわかる」
「……そうかもしれないけど」
作り話にしては出来過ぎだ。本にでもまとめて、空想の話として売ればそれなりに人気が出る題材だと少女は思った。しかし、とても目の前の少年たちが一から考えたとは思えない。ならば、物語では無く真実をただ語っているという話になる。
「解った。でも私は――」
そこまで言いかけたが、次の言葉は出てこなかった。何故なら、壊れるほどの勢いで扉が開き、3人の男が入ってきたからだった。
ナーニャの顔が硬直した。目には恐怖を映し、口はきつく閉じられている。
男たちはスキンヘッドが1人。髭面が1人。そしてリーダー各っぽい、いかにも金を持っているのだろうと思える、つま先から頭の先までを磨き上げたキザな男だった。
「客とは珍しいな」
キザな男がサンディラに気安く話し掛けてはいるが、どうにも和やかでは無い。
「今月の分返したはずだ」
「そうだよ? だから今日は客だ。もてなしてくれ」
男たちは適当なテーブルに着くと、行儀悪くテーブルに足を乗せた。
飲食店に訪れた人間が客だというのなら、店長は料理を出すしかない。追い出す事も出来るのだろうが、それはしなかった。
「アンタたちは2階に行ってな」
子供たちを関わらせたくない一心だった。
「でも」
ナーニャの縋るような言葉にも首を振った。
「行ってな」
だが、そのやり取りを見ていた男たちからすれば、嫌がらせを思いつくのは簡単だった。全員が同じ笑みを浮かべると、1人が口を開いた。
「せっかっくだからこっちに来て隣に座れよ。あ、男は要らねーからな」
髭面が下卑た笑いを向ける。
「ウチはそんな店じゃない」
短く怒気を孕んだ言葉。しかし、男たちはそれに怯えるほどの常識は持ち合わせては居なかった。
「どのくらい金借りてんのか理解してねーのか? テメーの娘が隣に座りゃ多少の金にしてやるって言ってんだ」
自分の方が立場が上なのだと知らしめる行為だった。
「良いよ、お母さん」
先に心が折れたのはナーニャの方だった。自分が耐えれば借りた金の足しになるし波風も起きない。そう判断して嫌嫌な表情を見せながら男たちの方に歩き出した。
「おぉ良いね! 俺たちは優しいからよ、ちょっとくらい抵抗しても怒らないぜ?」
「むしろその方が燃えるかもな!」
笑い合う声だけが店内を満たした。
「駄目だ、行くんじゃないよ」
母親として当然の言葉。だが男たちからすれば面白くない。
「本人が決めた事にとやかく言うなよ」
「早く来いよ」
だが、その言葉に従ったのは勝吾だった。彼は素早く座っているスキンヘッドの背後に回り、自分の右腕を男の頬骨の位置でぐるりと囲うように回した。
すると次の瞬間、スキンヘッドが悲鳴を上げた。
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