第5話 持ち物

「この辺りのギルドはどこだろうか?」


 目を爛々らんらんと輝かせながら、見ず知らずの店先に居る店主に声をかけた。恰幅の良い髭のおじさんだったが、不審者に声をかけられた子供の様に怯え知らないと言った。


 結果から言えばギルドなるものは無かったのだ。7人ほどにギルドはどこだと繰り返し、全員に知らないと繰り返される。


 その様子を黙って見続ける心志たち。


 打ちひしがれる敬輔は、


「何故だ。ギルドも無い、王や姫が異世界から人間を召喚するという話も無い。そもそも、魔王ってなんだ? って聞き返された。どうなってるんだこの異世界は!!」


 と、鬼哭きこくという言葉を正確に再現した。


「流石にここまで泣かれると引くな」


「他人の振りするか」


「…………」


 勝吾と心志は目線を逸らし、葵は苦笑いを浮かべる。


 ひとまず距離を取るために少し歩く。改めて、ここが本当に異世界なのだろうと実感し、心志はため息を吐いた。


 歩く度にジャリジャリと地面を踏み、少し埃っぽい空気を肺に入れる。


 すると、勝吾が口を開いた。


「問題は、この先の生活だよな」


「順応はやいな」


 思わずの心志のツッコミに、彼は当然だと答える。


「いつ帰れるか判らないのに、お気楽には居られないだろ。取りあえず俺たちの持ち物で要らないものを売るのが良いだろうな」


 食費などを考えると、4人分の資金を工面するというのは苦労するだろう。本当なら、どこか働き口を探すのが良いのだろうが、どこでどうやって探すのが正解なのかもわからない。


 身分を証明するものなど無いのも厳しい。


「お前ら、なんで俺を置いていく」


 後から追いかけてきた敬輔が抗議を口にする。


「僕らにも恥ずかしさはある」


 いたって真面目に答えると、黙って目を逸らせた。 


「それよりも敬輔、お前いま何持ってる? 売れそうなものを売って資金にしたいんだが」


「ん? 持ってるものか?」


 自分のポケットとバッグを漁って出てきたのは、携帯、財布、大量のアニメグッズ、ヴィーナのフィギュアだった。


「なんでだよ!!」


「どこに必要なんだ。どこで登場させる予定だったんだよ!」


「な、これは御神体と同じだぞ。売るつもりは無いが、少なくとも数万は下らない一品だ」


「この世界で売れる訳ねーだろ!」


「微妙かもね」


 口々に言いたいことを言って揉める。


「なら、お前らの有用な品を見せてみろ!」


 敬輔はそう言って心志を指さす。


「僕はこれしか」


 そう言ってバッグから取り出したのは携帯、財布、ガムだった。


「普通だな」


「普通だね」


「つまらん」


 特に何もなく終わり、続いて葵の番になった。


「私は――」


 葵は両手を広げ、何も持っていない事をアピールした。事実、彼はバッグの類を持っておらず、ポケットから携帯と小さい財布を出した。


「男らしすぎる」


「バッグはかさばるし、ミニバッグは何も入らないしねぇ」


 心志が感心を見せ、葵が頷く。


 最後の勝吾がバッグを開いた。彼のボディバッグからは、財布と携帯のほかに汗ふきシートとピルケース、ウエットシート、ハンドクリーム、リップクリームも出てきた。


「……」


「……」


「……」


「なんか言えよ、お前ら!」


「可愛い」


「何だとテメェ!」


 敬輔を締め上げる勝吾。目つきも悪く頭の色も派手な男のイメージを覆すものだった。


 全員の持ち物で売れそうな物は少ない。それをどうやって金銭に結び付けるのかを考えていると、


「そこ邪魔なんだけど」


 と声がした。

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