第4話 REAL LOVE

『このゲームはリアルさを追求し製作されました。以下の点にご注意下さい。

①キャラクターはリアルタイムで生活しています。時には素っ気ないこともあるかもしれません。

②キャラクターの言葉で貴女を傷つける恐れがあります。

③現実生活を大切に。ゲーム依存症に気をつけましょう。

以上、ご了承の上でプレイしてください。』


「はいはい。

 毎回長いのよ このメッセージ」

画面が変わりタイトルが表示される。


『 REAL LOVE 』


「さーて、コウジ元気かなーー♪」

ハナはスマホを持つ手を大げさにまくり上げた。

長髪の男性キャラが映る。

『やあ、ハナ。今日も綺麗だね』

「キャー!またまたぁ♡」

「『コウジ何してたの?』っと」

キーを叩く。

『いまライフワークの真っ最中さ』

「え?何だっけそれ。知らない」

『僕のライフワークかい?

 ハナのことを考えることさ』

「くぅ〜〜クサい!けどいいわぁ♡」

『すてきなライフワークね。

 私もあなたを想ってたとこよ』

『ありがと

 それなら二人のライフワークだね』

画面のイケメンがニコリと笑う。

「ふぅ〜。。。これこれ」

ハナは頬をついて目を細めた。

『コウジありがと』

『うん?なにが?』

『昨晩ね。飼ってた猫のユキが死んじゃったの、でもコウジのお陰で元気出てきた』

『そうか・・・悲しいね』

『うん』

『元気出して。泣いたことの無い人は、生の真の幸せには出会えないから』

「え⁉」

『きっとその涙はユキちゃんの最期のプレゼントだよ』

「!」

言葉を失う。

涙が温かい。ユキとくっついてるみたい。

ハナはしばらく自分の肩を抱いて震えた。


ピロン!スマホが呼ぶ。

『そうだ。気分転換に動物園に行ってみないかい?』

GPSでその場所に合った会話が出来るのもウリの一つだ。

ハナは窓に目を向けた。確かに出掛けるにはいい天気だ。

『いいわね じゃあ準備するね!』

大げさに腕まくりをする。

「コウジが本物だったらいいのに」

思わず口にした。ひとりフフと笑った。

ユキがいない今、いよいよREAL LOVEの親密度を示すラブポイントを貯めることだけが楽しみだ。これ依存症かな。


動物園に着くとスマホがピロンと鳴った。

『着いた?僕ももうすぐ着くよ』

『正面広場で待ってるね』

本当に恋人と待ち合わせしてるようでウキウキするが、周りの目が少し気になり「ここまでリアルにしなくても」とつぶやいた。


ピロン!

『お待たせハナ。どこから見ようか』

「え〜と」

正直どこでもよかった。

「こんなとき可愛い女は何が正解なんだろ」

ヒント機能を呼び出した。

『ヒント!好きな動物を1つづつ言い合いましょう』

ハナは、なるほど〜と口を「ほ」の字にした。

『私はミーアキャットが見たいわ、コウジは?』

『じゃあ猿山が見たいかな』

「ふふふ、かわいい」

ハナはスマホを片手に歩き出した。


ミーアキャットから行こうって言ってくれたので、その後に猿山に向かったんだけど、猿山のほうが入口から近かった。

『おぉ〜すごい、いっぱいいるねぇ』

コウジが珍しく興奮気味。

やっぱりかわいい。

スマホがどうやって周りの様子が分かるのか不思議だが、私にはインターネットがつながる仕組みも説明できないので考えないでおく。

「おお〜!」

隣の男性が同じように興奮している。

男は猿山を見ると唸るもんなのか?


『ボス猿カッコよかったねぇ』

?わかんない

『そうね』

返事適当すぎかな(笑)

『ごめん興味なかった?』

伝わってしまった。高機能。

『そんなことないよ楽しい!次はどしよっか?』

全力でポイントを巻き返す。

『遊園地エリアにジェットコースターがあるよ、ハナ平気?行ってみる?』

むー。ひとりでアトラクションはちと厳しい。

こんな時はヒント!

『ヒント!ぜひ行きましょう!』

『うん』

どしよ。


割と並んでるなぁ

「はーい!こちらシングルライダーさん受け付けてまーす」

「やた」これなら合法的にお一人様で乗れる。

ピロン!

「ん?」

『ヒント!8人目に並ぼう!』

「ええ〜⁉そんなことまでわかるの⁉

リアルの方にヒントって何⁉」

試しに少し待って指定の8人目に並んだ。

「はいどうぞー前に進んで下さーぃ」

「お、すすんだ、乗れそうかな?」

すぐ後に並んでた人と二人席に座った。

あ、この人さっきの猿山でおお〜とか唸ってた人だ。

ジェットコースターが動き始める。この上がってく時間が1番怖い。

カタカタカタ、ガクン!

・・・そのあとの記憶はほぼ無い。

侮っていた。すごく怖かった。

隣の男性も物凄い声を出していたのだけはうっすら覚えている。

ピロン!

『楽しかったねーハナ!次はバイキング!!」

えぇぇ〜まだ乗るの⁉

ピロン!

『ヒント!少し急いで』

うわっ何そのヒント。すでに命令口調だし。


「はぁはぁ」急ぎ足でも疲れるなぁ

「はーい順番に詰めてお座りくださーぃ」

係に案内されて座る。そして動き出す。

怖いよ〜

だんだん揺れが強くなる

こ、これは怖いぃぃ

「きゃ「うぉぉぉぉぉぉ〜!!」

私の声がかき消された。

隣を見ると、さっきの猿山男がまた隣で物凄い声を上げていた・・・そして再び記憶が途切れる。


ピロン!

はっとする。

あれ⁉降りてる。

いつ降りたんだろ。怖すぎて認知回路が焼き切れてる。

ゲームのためにやりすぎたな。

『激しいのばかりでゴメンね。大丈夫?』

『う〜ん少し休みたい』

『それじゃぁ乗り物はやめて・・・』

「あ!これ」案内板を見つけた。

『コウジ!ふれあい動物広場だって!ココ行ってみよ!』

『いいね!』


柵に入ると色々な動物が放されている。客は家族連れが数組程度。

大きめのはヤギとかリクガメ、小さいのはハムスターやウサギなど。

でもハナは真っ先に目についた猫コーナーへ

「わぁぁネコいっぱい♪」

猫の目的は人間が手に持つおやつなのだが、人間は猫が寄ってきてくれるだけで幸せ。

「わっと、ちょっと群がり過ぎ、ふふふ」

かわいい。ネコと遊ぶの楽しいな。

でも、やっぱり来なきゃよかった。

家に帰ってもユキが居ないのを思い出しちゃった。

楽しみながら泣いている。


「君、どうしたの?」

「あ、いえ、なんでもないです」

顔を上げると声をかけてきたのは、なんと猿山男。

「引っかかれた?係の人呼ぶよ」

「いえいえ!いい子ばかりですよ、すみません飼い猫亡くしたばかりで」

「そか。思い出しちゃったんだね」

「そうなんですぅぅ・・ぅ」

涙が止められない。認知回路と一緒に涙腺崩壊。なぜか集まるネコちゃん達。

「ほら、みんなが元気出してってさ」

「私だって元気出したいぃぃぐすっ」

「旅立ったネコだって君には笑っててほしいはずだよ」

「だっで笑って・・たらぁ・・んぐ薄情みたいっ」

「そんなことないさ、その涙はプレゼント」

トゥンク 胸が締め付けられる。

「だって、泣いたことの無い人は、生の真の幸せには出会えないはずだから」

「え!?」

ハナは顔を上げて男を見上げた。

「あなたなんて今⁉」



コウジはしまったと思った。

ゲームの流れでここに来たが、見知らぬ女性が目の前で突然泣き出したため、つい、REAL LOVEに出たセリフを口にしてしまった。

こういうセリフはアニメのイケメンが言うから良いのであって、僕なんかが言っても気持ち悪いだけだ。それにクサすぎか?

リアルへのヒントが欲しいよ〜

この人どうしよー

と、彼女を見るとさらに泣いていた。

ひっくひっく、としゃくり上げながら

「リアルコウジ見づげだぁぁ」



結婚生活って思ってたほど悪くはなかった。

いやいや、楽しかった。

夫のコウジはとても優しい。

でも恥ずかしがり屋で、私は甘い言葉が欲しいのに言ってくれないから時には腹も立ったが、そんな時はスマホのコウジに話しかけた。それが後ろめたく感じた。

なので2次元コウジのことは3次元コウジには秘密だ。

あっちで夫がゴソゴソしてる。

今のうちに少しだけ。

『コウジ大好きだよ』

『僕もさハナ!世界で1番の僕のお花!!』


心で叫んだ

「あ〜!今日も2次元コウジ(ハナ)はステキだ!!」




〜とある研究施設での会話

「どんな様子だ」

「所長、お疲れ様です。順調ですよ。

AIによるマッチング成功率は99.95%、今日中にあと10組は引き合わせ出来そうです」

「そうか引き続き頼む。人類の未来がかかったプロジェクトなのだと誇りを持ってくれ」

「はい!」

所長と呼ばれた男が部屋から出てきた。

その扉に表記されていたのは

『少子化対策プロジェクトREAL LOVE』

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