第1話 マンホール(改稿)

~ある探偵の事件ファイルより~

宇宙歴3151年0011、朝、男が穴に落ちた

男・・・40代、営業、健康ではあったがタバコはやめられなかった

穴・・・直径1mほど(遠目の目視計測)歩道の脇の伸びた草で少し見えにくい位置

【証言1:男の妻】朝変わった様子なし、歩き慣れた道(無防備だったことだろう)

【証言2:通行人30代女性】一瞬の事で本人は驚く暇もなかった様子

【証言3:通行人20代男性】昨日までは無かった穴

【証言4:警察関係者】穴は底なし(ばかな!!)

以上


男の妻から真相究明を頼まれた

何しろこの事件、だれも責任を取らない


この街も古い

こないだも道向こうの水道管が破裂したばかりだ

道に穴が

昨日までの安全な通勤路にある事は

まあ

あるだろう


しかし

その穴が底無しならどうだろう

それは聞いたことがない

正真正銘

底無しなんだ


通報を受けて すぐに消防や警察が駆けつけ、果ては軍隊や研究者まで出張ったが

その穴がどこまで続くのかさえ分からなかった

当然 落ちた男がどうなったかは不明


それから長いこと調査をしていたが結局

当局はその穴に蓋をして

厳重に管理する事にし

「『わからない』ということが分かった」

などと分けのわからない発表をしたきり


しばらくは世間を騒がせたが

いつしか 移ろいやすいニュースは

タレントのスキャンダルで上書きされた


男の生死もわからないんでは

俺も調査のしようがない

彼女には金を返し

あきらめてもらった


数年たったとき

原発でテロが発生した

犯行集団はすぐにも制圧されたが

メルトダウンは防げず

街中の汚染は確実だったが

助かった


核燃料は地下へ消え去った

そう文字通り ”消え去った”


この時

俺は思い出した

あの 男が落ちた穴と同じなのだ


俺は事件を調べ直した

俺たちは何かを隠されている

しかしすべて闇の中だ


ひとつだけ気になる論文を見つけた

学会では相手にされていない論文だった

信憑性に問題ありってやつだ


その論文には

この筒状の大地の外には

果てしない空間が拡がっているというのだ


あの穴だけじゃない

地下の向こうには

無限の闇が拡がっている


つまり俺たちは

真っ暗な空間にプカプカ浮いているってんだ


なんと馬鹿々々しくも恐ろしい説なのだ

それが本当なら

人類はなんと孤独なことか

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