第33話
ハッと意識が戻るレヴィアタン。
呼吸は乱れ、冷や汗をかいている。
(久々に思い出した……)
時々、断片的に思い出すことはあっても、ここまで、しっかり思い出したのは久々だった。
「レイディエ殿下……」
シュトュルは相変わらず、レイディエ殿下の手を握っていた。
(まだ、目覚めてないのね。なら、命を奪うチャンスはまだある。この恋を、破綻させることが……できる)
シュトュルを介してレイディエ殿下に潜り込むだけ。
(……体が、動かない?)
潜り込むだけなのに、体が動かなかった。
『きみと一緒に、こうやってのんびり海にたゆたう時間が、好きだな』
また、唐突に過去の記憶が、彼の言葉を思い出す。
その言葉が、レヴィアタンを縛る。
それ以上、動けなかった。
レイディエ殿下の手を握り続けていたシュトュル。
何か、ピクリと動いたのだ。
「……え」
思わず、レイディエ殿下の顔を見る。
まぶたが、ピクリと動く。
「レ、レイディエ……殿下?」
名前を呼べば、まぶたがゆるゆると上がる。アメジスト色の瞳が、シュトュルを見ていた。
「……シュ……トュル」
掠れた声で、シュトュルの名前を呼ぶ。
「レイディエ殿下……!!良かった……!」
シュトュルの視界は歪む。
涙が溢れるのだ。
ポタポタと涙が落ちる。
「君は……大丈夫なのか。起きていて」
レイディエ殿下は真っ先にそう聞く。
「私は大丈夫です……!レイディエ殿下が、守ってくれたおかげです。……レイディエ殿下、ごめんなさい」
「何で、謝るんだ?」
「だって……私のせいで、レイディエ殿下にこんな傷を負わせてしまいました。私が、もっといち早く、危険に気づけたら……!」
シュトュルがそう言えば、レイディエ殿下はフッと笑う。
「もう、過去の話だ。今さら悔いた所で、どうにもならない……。結果として、お互い無事だったなら、それでいい」
レイディエ殿下はゆっくり息を吐く。
そして……
「シュトュルが、無事で良かった」
レイディエ殿下が笑う。
その笑顔を見たら、シュトュルは思わずレイディエ殿下を抱き締める。
「ありがとう……ございます……!私を守ってくれて。そして、目覚めてくれて……!本当に、良かった……!レイディエ殿下がこのまま目覚めないんじゃないかと、心配で、不安で……!」
シュトュルが泣きながらそう言えば、レイディエ殿下は少し笑う。
「ふふ……すまない。君をそんなに不安にしてしまって。それにしても……シュトュルからそんなに心配される日が来るとはね……」
その言葉を聞いたシュトュルは、涙を拭い、レイディエ殿下のアメジスト色の瞳をしっかり見つめる。
「私……レイディエ殿下のことが好きです」
レイディエ殿下の目がじわじわと開く。
もう1度、シュトュルは言う。
「レイディエ殿下のことが好きです。もっと貴方のことを知りたい。そして……貴方の隣にいたいです。一緒に人生を、歩みたい」
レイディエ殿下が、ゆっくりと体を起こす。
そして、シュトュルのペリドット色の瞳を見つめた。
「僕もシュトュルのことが好きだ。もっと君のことが知りたい。僕も……君と一緒に人生を歩みたい」
静かに、2人は抱き締め合う。
そして、優しく口づけをした。
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