第31話
「好きです…レイディエ殿下」
ポツリとそう呟くシュトュル。
シュトュルの中のレヴィアタンは、クスクスと笑った。
誰にも聞こえないように。
(計画通りじゃなくなったけど…時にはイレギュラーなことが起きてもいいわね。思ってた通りに動くのは、満足ではあるけれど、驚きは無いし…。どうであれ、シュトュルは彼のことが好きになった。だけど、彼は昏睡状態…。自覚した想いを伝えられない)
シュトュルはずっとレイディエ殿下の手を握っている。
レヴィアタンにとって好都合だった。
(シュトュルの手から彼の中に潜り込める。そして…彼の命の灯火を消してやるわ…!シュトュルは永遠に彼に伝えられない、その好意を…)
ふと、甦る。レヴィアタンの過去の記憶。
(自分もそうだった。彼に伝えられなかった。自分の想いに気づいたのは、彼が死んだときだった)
許さない、人間達を。レヴィアタンの番を奪った人間を許さない。
レヴィアタンと同じ苦しみを味わえ。
(だから、あたしは海を司る神であり、嫉妬に狂う悪魔になった)
スルリと、蛇が地面を這うようにシュトュルの手からレイディエ殿下の中へと入り込む。
そう、入り込もうとした時だ。
ズキッとレヴィアタンの頭が痛む。
(ッ…?何かが抵抗してる?)
レヴィアタンの耳に、シュトュルの声が聞こえる。
「レイディエ殿下…どうか目を覚ましてください」
『目を覚まして頂戴…ねぇ、どうして?』
シュトュル以外の声が聞こえる。
聞こえると言うか、レヴィアタンの頭の中で響く。
レヴィアタンの呼吸が乱れ出す。
今のは、今の声は…
「レイディエ殿下…はやく、貴方の声が聞きたいです…どうか私の名前を…呼んでください…!」
『何か言って…!ねぇ、返事をして頂戴…!!』
(コレ…あの時の…言葉)
頭の中に響く声は自分自身の声だ。それも、昔の。
レヴィアタン自身が封じ込めた過去の記憶。
ズルリと体が落ちる。
深い暗闇へ落ちるレヴィアタン。
沈む、レヴィアタンの意識と体。
ゴポゴポと、奥底へ。遥か昔の過去へ…。
神が与えたレヴィアタン達の役目は、海を守ることだ。
番のレヴィアタンは、広い海を泳ぎ、海を守っていた。
レヴィアタン達は同時に神によって海に産み落とされたので、番であると同時に姉弟のようでもあった。
「今日も海は穏やかね」
キラキラと輝く水面を見ながら一匹のレヴィアタンがそう言う。
「そうだね。さっきは鯨がちょっと暴れてたけど、今は落ち着いたみたいだ」
もう一匹のレヴィアタンも同じ様に水面も見つめてそう言った。
「ねぇ、ちょっと競争しましょうよ。南の方までどっちが早く泳げるか」
「君は本当に僕と競争したがるね。構わないよ、今日は僕が圧勝だ」
二匹のレヴィアタンはクスクス笑う。
笑い声に反応して小魚達がふわふわと寄ってきた。
ずっとずっと、こんな風だと信じて疑わなかった。
この時までは。
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