第30話
気を失ったレイディエ殿下。
じっとりと、レイディエ殿下の礼服に血が滲む。
「レイディエ殿下!誰か…!誰か来て下さい!!」
シュトュルがそう叫ぶ。
「あぁ…あはは…ふふ」
乾いた笑い声が聞こえる。ネーベルが呆然とシュトュルとレイディエ殿下を見ながら笑っていた。
「ネーベル様…!貴方、なんて事を…!!」「あ~あ…わかってるわよ、シュトュル様。もう私は終わりね。一家もろともおしまい」
ネーベルはそう言って、ゆるゆるとしゃがんだ。
地面に手をつく。
そして、辺りに散らばっていたガラスの破片を手に取った。
「こうなったら、私も貴方もレイディエ殿下も…!皆、道連れにしてやるわ!!」
ネーベルは、自分の手が傷つくことも気にせず、ガラスの破片を握りしめて突進する。
シュトュルの体は硬直して動かない。
(無理だわ…!もう、どうすることも出来ない…!)
ガラスの破片の切っ先がシュトュルの目前に迫る。
「そこまでだっ!」
2人の騎士がネーベルを取り押さえる。
ネーベルの手からガラスの破片が滑り落ち、パリンと音をたてて粉々になった。
「やめて!離してっ!!どうせ私は終わりよ!大罪を犯してしまったのだから…!シュトュルを道連れに出来ないなら、アンタの目の前で自決してやるわ!!」
ネーベルはシュトュルを睨み付けながらそう叫ぶ。
「シュトュル様!レイディエ殿下!」
レイディエ殿下の従者、ディフェンが駆け寄る。
「レ、レイディエ殿下が私を庇って刺されてしまったのです…!気も失ってしまって…!わ、私のせいで…!!私のせいです!!」
すっかり気が動転しているシュトュル。
「シュトュル様!落ち着いてください!大丈夫です、レイディエ殿下をそう易々と死なせはしません。緊急事態なので、転移魔法を使います。シュトュル様、私から離れないように…!」
ディフェンのその言葉を聞いて、少し冷静になったシュトュル。
(そうだわ…私が慌ててもこの状況が変わるわけないわ…!しっかりしなさい、シュトュル!!)
レイディエ殿下はすぐに治療され、一命を取り留めた。
しかし、意識は戻らず、昏睡状態が一週間続いていた…。
シュトュルは昼夜問わず、レイディエ殿下の側にいた。
静かな部屋の中、シュトュルはレイディエ殿下の手を握り続けていた。
「レイディエ殿下…目を覚ましてください…」
シュトュルは『早く目覚めて』とひたすら祈る。
「失ってから気づくって…こう言うことなのね…」
シュトュルはポツリとそう呟いた。
「レイディエ殿下、お慕いしています。好きです。殿下の事が…もっと知りたいです。もっともっと貴方を好きになりたいですっ…」
この気持ちは、シュトュルの中に芽生えたものだ。嘘ではなく、本心。
「どうか、この想いを貴方に伝えさせて下さい…」
だから、目を覚まして。
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