第29話
シュトュルとネーベルの距離は2メートル弱、と言った所だ。
ふと、シュトュルは今まさしく、騎士達の手によって捕らえられている魔獣…黒いライオンがネーベルが契約している召喚獣によく似ている事を思い出した。
そして、契約者の魔力が乱れると、召喚獣にも影響を及ぼし、暴れだしたりする事も思い出した。
シュトュルはシャンデリアの残骸などを避けながら、ネーベルに近づこうとした。
「ネーベル様…!あの、だ、大丈夫ですか?まさか…あの魔獣、ネーベル様の契約している召喚獣…なのですか?」
「……よ。……だわ」
「え…?」
ネーベルが何か言っているが、下を向いているせいでよく聞こえない。
すると、バッとネーベルが顔を上げた。その顔は苦しそうで、涙が止まることなく流れている。
そして、シュトュルの中にいたレヴィアタンは異変に気がついたのだ。
ネーベルが握りしめていた物にやっと気がついた。
「もう終わりよ!!何もかも、もう終わりだわ!!」
『シュトュルッ!彼女、ナイフを持ってる!!』
ネーベルが叫び、シュトュルに突進するのと、レヴィアタンが叫び、シュトュルの体を動かすのは同時だった。
しかし、グッとシュトュルは何かに足を取られて逃げそびれる。
シャンデリアや調度品の残骸、足場も一部崩れている箇所がある。
シュトュルはちょうど、足場の悪い場所、残骸が散乱している場所にいたのだ。
そう言った物にドレスの裾を絡め取られてしまったのだ。
2メートルはあまりにも近すぎた。
逃げれないなら、魔法で何とかしたい所だが、詠唱している時間などない。そんな事をしている間に指されるのは容易に想像できる。
しかし、易々と指されるわけにはいかないのだ。
シュトュルとしても。レヴィアタンとしても。
(左腕ぐらいなら…!)
レヴィアタンがシュトュルの向きを左に向けさせる。
ひとまず、真正面から心臓や内臓などの急所を刺されないようにする。
ナイフを持ったネーベルは目前だった。
ドスッ!
鈍い音がシュトュルの耳によく響いた。
しかし、全く痛くない。
感覚が麻痺しているのか?
否、そうではない。
シュトュルの視界は真っ暗だった。
何故なら…
「シュトュル…無事…か?」
「レ、イディエ…殿下…?」
シュトュルをキツく抱き締めていたのはレイディエ殿下だ。
しかし、シュトュルを抱き締める手の力が徐々に緩んでいく。
シュトュルは恐る恐るレイディエ殿下の背中に手を回す。
そして、『ソレ』はあった。
指先に触れる、固く冷たい、金属の物体。
「レイディエ殿下っ…!!」
ズルリと落ちそうになるレイディエ殿下の体をシュトュルは支える。
「どうして…!どうして…!?」
どうして、飛び出してきたの?
どうして、私を庇うの?
シュトュルの若草色の瞳から涙が零れる。
ナイフで刺されたレイディエ殿下は気を失った。
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