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 カンカンカン、と音が鳴っている。

 うるさいなあ、と思った。例えばそう、気持ちよく眠っているとか、いい夢を見ているところだったのに、それを邪魔して目覚まし時計がけたたましく鳴っているような。

 なんの音だろうとまともに働かない頭で考える。いや、それ以前になぜ頭が働かないんだろう。眠ったような心地で、でもこんなにほとんど目覚めたような感覚なのに、まぶただけが開かないような……。

 風が吹く。寒い。寒い?

 その瞬間、突然視界が開けたようになって覚醒した。思わず何度か瞬きをする。カンカンという耳障りな音は目が醒めると同時に消えたが、その代わり目の前に踏切があった。

 踏切。どうして。

 足の裏が痛かった。目線を下ろすと、足には何も履いておらず、裸足が地面を直に踏んでいた。冷たい。加えて、服も寝るときに着ていたスウェットだった。

 真っ暗の中周りを見渡すと、立ち並ぶ家々は見覚えがある町並みだったが、一切電気が点いている様子がなかった。これは、とても遅い時間なのではないだろうか。

 夜中の街の中で呆然と立ち尽くす。とにかく帰らなければ。

 ふと、足音が聞こえた。それはこちらから少し離れた位置で止まる。

 振り返ることをためらった。「変な人」だったらどうしよう。そう思っていると、声をかけられる。

「帰ろう」

 普段からよく聞く声だ。すっかり安心してそちらを向けば、ライトを点けた携帯電話を握りしめた姿があった。足元を見ると、玄関に置いてあったのだろうサンダルを慌ててひっかけたように履いていた。

 その足で、一歩こちらに踏み出す。


「帰ろう、夏樹」

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