第8話 Me Too運動

「女騎士を性的な目で見るなー!」「性的な目で見るな―!」


「女騎士が堕ちやすいという偏見をなくせー!」「偏見をなくせー!」


「女騎士のケツが弱いという風潮を是正しろー!」「是正しろー!」


 出た。たまにデモ活動している過激派の女騎士達。オークから女騎士を守る党という組織だ。彼女達は女騎士の尊厳や人権を手に入れるために日夜活動している。


 結成当時は女騎士からの支持も高くて、1000人程の大組織であったが、結局女騎士。すぐに快楽漬けにされて、寝返る女騎士が大多数となり今では100人程度しかいない。結成当時の1/10になっても諦めないその心は本当に凄いと思う。


 ちなみにこの、オークから女騎士を守る党の党首はセシリアちゃんの母親である。そりゃこんな母親じゃあんな娘が育つ。しっかりと母親の影響を受けて小難しい話をしている。


「女騎士のエロ同人は全部純愛モノにしろー!」「純愛モノにしろー!」


「私は夫と娘を愛しているー!」「は?」


 先頭に立っていたセシリアちゃんのお母さんの掛け声に、後方の女騎士達が反骨精神を見せた。これは一体どういうことだろうか。


「私まだ独身なんですけど? 今年で30なんですけど! 彼氏すらいたことないんですけど! まだ処女なんですけど!」


 女騎士は早ければ18歳でその身を持ち崩す者がいる。25歳までに半数の女騎士が快楽堕ちするか結婚するかのどちらかになるため、30でどっちつかずの女騎士は非常に珍しい。


「そんなの知らんがな」


 セシリアちゃんのお母さんは抗議した女騎士を一蹴した。そりゃそうだろう。そんなことまで面倒は見切れないと思う。


「いい? 私達は女騎士というだけで差別を受けてきたの。どうせすぐヤラせてくれるとか、突っ込めさえすればアヘアヘになり、従順になるとか。そんな根も葉もない根拠で散々苦しめられてきたの」


 それは確かに可哀相なことである。一部の女騎士のせいで全体の女騎士が迷惑しているのだ。尤もその一部の母数がやけに大きいけれど。


「私達はそんな可哀相な被害者である女騎士を励ますためにMe too.と言って励ましてあげなきゃいけないの。これは女騎士全体の問題なのよ! だから私達女騎士同士で、結婚したか否かで争っている場合じゃない!」


 全く持って正論である。この世界の女騎士差別は深刻だ。女騎士全体が力を合わせて取り組まなければならない事態であろう。


 僕もその女騎士差別を少しでもなくしたいと思っている。だからこそ、この幼稚園で先生として頑張っているのだ。未来の気高い女騎士を育てるために。


「私だって結婚したかったよぉ! 20代の内にウェディングドレス着たかったのにぃ! んほぉおおぉぉ!」


「やめなさい! いくら悲しいからって、んほぉって泣くのはやめなさい!」


 最早地獄絵図。いい歳した30歳の女騎士が泣き喚いている。


「あ。お母さん。今活動中なの?」


「そうなの、ほら。セシリアちゃん。皆さんにご挨拶なさい?」


「こんにちは。母がいつもお世話になっております」


 セシリアちゃんがペコリと頭を下げる。大変微笑ましい光景だ。しかし、それが女騎士の火に油を注いだ!


「あああ! よく出来た娘えええ! 羨ましいぃい!! 幸せの象徴を見せつけやがってぇ! 許さんぞぉ!」


 女騎士は剣を振り回して暴れまわった。危ないこのままでは怪我人が出る。急いで止めないと。


 僕は彼女を刺激しないようにゆっくり背後から近づいて、羽交い絞めにして抑え込んだ。


「離せ! あんた何なの!」


「落ち着いて下さい。貴方は十分魅力的です。素敵な人が現れるはずです」


 僕のその言葉に女騎士の動きがピタリと止まった。


「え? 私が魅力的……? 本当に……?」


「ええ。本当です。ですから落ち着いて下さい」


「あ、貴方名前は何て言うんですか?」


 心なしか女騎士の目がウットリとしている気がする。何故だろう。変な悪寒を感じる。


「僕の名前はジョルジュです。女騎士の幼稚園ジャンヌ・ダルクの先生です」


「ジョルジュさん……素敵なお名前……それに、ジャンヌ・ダルクと言えば、未来ある女騎士を育てる学び舎。そこの先生だなんて素敵すぎますぅ……」


 一体何なんだろうこの人は……僕の体を嘗め回すように見て……気味が悪い。


「ねえ、ジョルジュせんせぇ……私、シャルロッテって言います。その……セックスを前提に結婚してください!」


「ま、待ってく下さい。色々おかしいです。それを言うなら結婚を前提にお付き合いして下さいじゃないんですか!?」


 何なんだこの女騎士は処女なのに、セックスのことしか頭にないのか。


「ジョルジュ先生。ご挨拶が遅れました。いつも娘がお世話になっております。セシリアの母です」


「あ、いえ。そんなご丁寧にどうも」


「では、先生とシャルロッテさんは2人きりにした方が良さそうですし、私達はこれで失礼しますね」


 え?


「ちょ、ちょっと待ってくください。そういう気の使い方本当に要りませんって」


「ジョルジュ様ぁ……私を貰って下さい。ジョルジュ様の言うことなら何でも聞きます」


 何なの! 僕何もしてないのにこの女騎士チョロくない? 何が女騎士の差別と偏見をなくすだよ。こんなチョロかったら、そりゃ差別も偏見も生まれるわ!


「せんせー。良かったですね。せんせーに恋人が出来たって。オリヴィアやアニータにも教えてあげなきゃ」


「そ、そういうのいらないから!」


 実は、僕は女騎士が好みのタイプではないのだ。何故なら僕は女僧侶派だからだ。女騎士の体はどうも筋肉質で受け付けない。過去に1回抱いたことがあったけど、抱き心地はそんなに良くなかった。


 それに比べて女僧侶は女性らしいボディラインをしていて、体つきも柔らかくて抱き心地も抜群。結婚するなら女僧侶だって決めていたのに。


 何で女騎士に好かれてしまったんだ。僕は自分の運命を呪ってしまった。

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