第5話 女騎士とオーク

「よーし。今日は、皆で女騎士とオークをして遊ぼうか!」


 女騎士とオークとは、女騎士チームとオークチームに分かれて行う追いかけっこである。女騎士チームはオークから逃げきれば勝ち。オークは女騎士全員を捕まえたら勝ちというゲームだ。


 オークは捕まえた女騎士を所定の場所へと閉じ込める。


 閉じ込められた女騎士はその場から出ることは出来ないけど、仲間の女騎士にタッチされると脱出することが可能という遊びだ。


 僕も昔小さい頃、これでよく遊んだな。


「わーい。女騎士とオークだ。私これ好きー」


 オリヴィアちゃんがテンション上がっている。そういう風に思ってくれると提案した甲斐がある。


「たまにはそういう遊びもいいかもね」


 セシリアちゃんも乗り気のようだ。普段クールで大人ぶっている彼女ではあるが、やはり年相応の幼稚園児のようだ。


「えっと……皆の足を引っ張らないようにがんばるね」


 アニータちゃん。そんなに気を遣わなくていいんだよ。所詮ゲームなんだから気楽に行こう?


 という訳で、僕がオーク役で、オリヴィアちゃん、セシリアちゃん、アニータちゃんが女騎士役になった。3対1のガチンコ勝負。相手が幼稚園児だからって手加減はしないぞ。大人の強さを見せつけてやる。


「わー。オークだー。逃げろー」


「アニータ。貴女が捕まっても私が助けてあげる」


「ありがとうセシリアちゃん」


 皆が散り散りに逃げた所でゲームスタート。まずは誰から捕まえようかな。僕は膝に矢を受けて、あまり走るのは速くないけど、流石に幼稚園児には負けないだろう。


 このゲームのセオリーというのは足の速い子から捕まえるというのがある。足の速い子はすぐに救出に向かおうとする。それが成功してしまえば折角捕まえた子を逃がしてしまうことになる。


 反対に足の遅い子は救出しようだなんて発想がない。自分が逃げるので手一杯で他人を助ける余裕がないのだ。だから、捕まえるのは一番最後だ。


 足が速い順番で行けば、オリヴィアちゃん、セシリアちゃん、アニータちゃんの順番であろう。まずはオリヴィアちゃんを捕まえよう。


 僕はオリヴィアちゃんに向かって走ると、オリヴィアちゃんはこちらに笑顔を向けてきた。


「わー。オークが来たー。きゃー、こわーい」


 最早キャッキャとしていて、どこが怖がっているのか疑問だ。オリヴィアちゃんと少しずつ距離を詰めていく。やはり幼稚園児。いくら足が速いと言っても大人の脚力には勝てない。


「絶対にオークなんかに負けたりしない!」


 オリヴィアちゃんがキリっとした表情でそう言う。2秒後、僕はオリヴィアちゃんにタッチをした。


「オークには勝てなかったよ……」


 女騎士の様式美を見せつけられた所で、僕はオリヴィアちゃんをジャングルジムの中に閉じ込めた。このジャングルジムは檻のようなもの、ここから外に出ることは出来ない。


「やめて! 私に乱暴するつもりでしょ! エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!」


「だから、どこでそんな言葉を覚えてきたの!」


 何も事情が知らない人が見たら誤解されかねない発言をオリヴィアちゃんがした。け、憲兵さん違うんです。僕は幼い子に乱暴する趣味はないんです。オリヴィアちゃんが勝手に言ってるだけなんです。


「んひいぃぃぃいいい! オーク! オークのしゅごいのおおぉお! ちょうらい! もっとオークのちょうらい!」


 檻の中に入ったオリヴィアちゃんが大声で喚き始めた。しまった、この子はそういう子だった。オークに捕らえられているシチュエーションで勝手に妄想を繰り広げるような子だった。


「先生……貴方、オリヴィアに何をしてるんですか……」


 セシリアちゃんが呆れたような目で僕を見てきた。


「ち、違うんだセシリアちゃん。僕は何もしていない」


「やはりオークは下劣な種族なんですね」


「もうオリヴィアちゃん黙らせるために救出して」


「はいはい。オリヴィア。出るよ」


 セシリアちゃんにタッチされてオリヴィアちゃんは見事脱出に成功した。こんな方法で脱出するなんて解せぬ。オリヴィアちゃんを捕まえるのは最後にしよう。じゃないとまた騒がれてしまう。


 とりあえず、オリヴィアちゃんとセシリアちゃんは後回しだ。最初の作戦とは違うけど、アニータちゃんを捕まえよう。彼女なら騒ぐということはしないはずだ。


 僕はアニータちゃんを追いかけた。


「ひ、ひい……こ、怖い……」


 アニータちゃんは全力で逃げ出した。これが速い……否、疾いっ……! 膝に矢を受けた僕では到底追いつけないほどのスピードだ。何だこの逃げ足の速さ。これが本当に幼稚園児のスピードなのか! 女騎士としての潜在能力の高さが出たのか!?


「はぁ……はぁ……もうダメ……」


 アニータちゃんは息も絶え絶えでバテてしまった。スピードは出せてもスタミナがないようだ。このまま捕まえてしまおう。


「せ、先生……そ、その……や、優しくしてくださいね……」


 なぜだろう。優しく捕まえて欲しいって意味なのに、よこしまな考えが脳裏をよぎった。な、何て想像をしたんだ僕は。オリヴィアちゃんならともかく、純粋なアニータちゃんをそんな目で見るなんて。


 何はともあれ僕はアニータちゃんを優しく連行した。次は、セシリアちゃんだ。セシリアちゃんはアニータちゃんを助けると言った。なら、檻の付近で待っていよう。そうすれば彼女は必ず来るはずだ。


「オーク! こっちに来なさい。このセシリアが正々堂々とした決闘を申し込むわ」


 そうは言われても後ろにオリヴィアちゃんが控えているのが丸わかりである。僕がセシリアちゃんを追いかけている隙に、オリヴィアちゃんがアニータちゃんを救出する作戦なのだろう。子供の考えていることなんて大人の僕にはお見通しさ。


「う、わ、私を捕まえなさいよ!」


 焦ったセシリアちゃんはこちらに近づいてくる。この時を待っていた。僕は一気に距離を詰めて、セシリアちゃんを捕まえた。


「く……やるわね」


 アニータちゃんとセシリアちゃんは仲良く檻の中に入ることになった。残りはオリヴィアちゃんだけだ。


 所詮最後の一人。追いかけて捕まえればいいだけの話。僕はオリヴィアちゃんを追いかけた。


「あはは。捕まえてごらん。あははは」


 恋人が砂浜でやるやつをやりたかったのだろう。だが、本当にすぐ捕まえることが出来た。所詮幼稚園児。大人の脚力には勝てないのさ。


「はっはっは。オークの勝ちだね」


「むー。先生大人気おとなげなーい」


「はっはっは。これが大人のやり方だよ。オリヴィアちゃん」


「結局、女騎士はオークに勝てないんだね……」


 アニータちゃんは厳しい現実に直面して涙目になってしまった。


 オークにも勝てる女騎士を育成する当園で、この結果はまずかったであろうか。


「アニータ。大丈夫よ。今回は負けてしまったけど、女騎士が誇りを捨てない限り、必ず女騎士復権の日は来るわ! だから決して堕ちちゃダメ」


 流石セシリアちゃん頼もしい。3人共同い年のはずなのにお姉さんの風格がある。


「いつかこの憎きオークを倒してみせるわ!」


 セシリアちゃん。キリっとした表情をするのはいいけど、僕一応先生だからね! 倒さないでね。

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