第3話 鳴き声当てクイズ

 自己紹介も終わって、リコリス組の皆の名前も覚えた。どの子も名前も顔も可愛い子ばかりだ。やはり女騎士を目指す子は顔面偏差値が高い。だからこそ、性欲が強いモンスターに狙われてしまうわけだけど。


 とにかく、これから本格的に僕の幼稚園の先生としての人生がスタートする。心機一転頑張ろう。


「はーい。皆ー。今日は、クイズをして遊ぼうか?」


 女騎士とは言え、頭脳は必要だ。でなければ、すぐに快楽堕ちしてしまう頭の悪い女騎士になってしまう。きちんと理性を保つためにも脳のトレーニングは不可欠なのだ。


「わーい。クイズだー楽しみだなー」


 オリヴィアちゃんが喜んでいる。こうして無邪気な所を見ると普通の子供なんだけどな。これと同じ口でとんでもない、えちえちなことを言い出すのだから始末に負えない。


「じゃあ、ワンワン。これは何の動物の鳴き声だ」


「犬ー!」


 子供達が無邪気にそう答える。その様がとても幼稚園児らしくて愛らしい。


「じゃあこれは? ニャー」


「猫ー!」


「ヒヒーン!」


「馬ー!」


「オウフwwwフォカヌポゥwww」


「オタクー!」


 やっぱり女の子だけのクラスなら真面目に答えてくれるな。もし、ここで男子が混ざっていたら、ふざけて別の回答する奴が出てくるだろう。それはそれで、子供っぽくて良いのだが、あまり脱線しすぎるのも良くはない。


「せんせー! 私も問題出していい?」


 オリヴィアちゃんが手を上げた。積極的に授業に参加してくれるのは嬉しいことだ。


「ああ。いいよオリヴィアちゃんは何の動物の鳴き声をするのかな?」


「んほおおぉぉおぉぉおお!! ひぎぃいいぃぃいぃ!! あへえええぇぇぇええ!!」


 場の空気が凍り付いた。いや、子供達は何かわかってないから、いいんだけど

僕が反応に困ってしまった。


 な、何を言い出すんだこの娘は! それ動物の鳴き声違うぞ! 女騎士の鳴き声だ!


「今の鳴き声何?」「知らない」「何の動物だろうね」「面白い鳴き声だよね」


 子供達がざわつき始めた。まずい、みんなオリヴィアちゃんの「んほおおぉぉおぉぉおお!! ひぎぃいいぃぃいぃ!! あへえええぇぇぇええ!!」に夢中になっている。


「せんせー! 早く当ててよー」


 チクショウ! またわかってて先生を困らせているパターンか! チクセウ!


「オリヴィア。やめなさい。はしたないわ」


「えー。はしたないって何? どういうこと?」


 いいぞ。セシリアちゃん。もっと言ってやってくれ。僕はセシリアちゃんの常識人っぷりに期待をした。


「女の子がそんな大声で叫ぶものじゃありません。もっと小声でいいなさい」


 声のボリュームの問題じゃねえ! 内容の問題だ!


「わかったよ。セシリアちゃん。んほおおぉぉおぉぉおお……ひぎぃいいぃぃいぃ……あへえええぇぇぇええ……」


 二度も言った! 何で二撃目放ったの! 


「ところでオリヴィア。これはなんの鳴き声なの?」


「正解は私のお母さんの鳴き声でしたー」


 この子にしてこの親あり。お母さん何してんですか。娘に悪影響ですよ! 両親が致しているのに気づいたら、子供はトラウマになるんですよ!


「いつも玉ねぎ切っているときにこんなこと言いながら泣いてるの」


 ごめんなさい。僕の心が穢れてました。リアクションが大袈裟なだけで致しているわけではなかったのですね。


「後は、夜になるとたまに聞こえてくるんだ。お父さんとお母さんが寝ている部屋から」


 てめえええ!! やっぱり致してるんじゃねえか! せめて子供に聞こえないようにやれ! お父さんももっとお母さんに優しくしてあげなきゃダメでしょ。女性はもっと紳士的に扱わないと。


「まあ、その時鳴いているのはお父さんなんだけどね」


 まさかのお父さんが責められてるパターン。コペルニクス的転回。何なの? オリヴィアちゃんのお父さんって前世は女騎士だったの?


 まあ、オリヴィアちゃんの知識の出どころがわかったところでこれはちゃんと注意しないといけないことだな。


「オリヴィアちゃん。あのね。今先生がやっているのは動物の鳴き声当てクイズなんだよ? お父さんとお母さんを動物扱いしちゃダメでしょ?」


「はーい」


「そうだよ。オリヴィアちゃん。動物っていうのは、犬とか猫とかオタクのことを言うんだからね」


 流石アニータちゃん。気弱そうな顔しているけどいいことを言う。


「えー。じゃあ犬の鳴き声だったらいいの?」


 ははは。子供はやっぱり可愛いな。クイズ出す前に犬ってバラしちゃダメじゃないか。偏った知識はあるけれど、そういう所はまだまだ子供だな。


「じゃあ行くよ。あひぃん……そ、そこダメだってば、や、やめて。オリヴィアちゃんに聞かれちゃうよ」


 そんな鳴き声する動物はいねえ! それもう鳴き声じゃなくて喘ぎ声だろ。思いっきり喋ってるじゃねえか!


「あ、あの……オリヴィアちゃん。それも人間の声だよね?」


「ううん。違うよ。お兄ちゃんの彼女の声だもん。お兄ちゃんの部屋で、お兄ちゃんが彼女さんとイチャイチャしている時の鳴き声だよ?」


「えっと? 彼女ってことは人間だよね?」


 まさか、オリヴィアちゃんのお兄さんは動物と付き合っているのか? この子の兄ならそれもありえそうって思ってしまうのが嫌だ。


「ちがうよー。だって、その時、お兄ちゃんは彼女のことメス犬って呼んでたし、犬だよ」


 何してんだあ! そ、そりゃあ、女騎士を凌辱するような読み物を読んでいるお兄さんだから、やりそうなのはわかるけど。せめて、オリヴィアちゃんの聞いていないところでやれー!


「ち、ちなみに。お兄ちゃんの彼女はどんな人なの?」


「ん? 女騎士だよ」


「あー……」


 女騎士の風評被害の解消と、人権と尊厳の獲得はまだまだ遠いなとしみじみ思った。ただ、オリヴィアちゃんのお兄ちゃんの彼女の女騎士の喘ぎ声は、女騎士にしては慎ましやかだった。わびさび。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る