第2話 初顔合わせ
ここの敷地内に入って早々に幼稚園児に絡まれて、振り回されるなんてツイてないな。最近の子は色んな意味で進んでるなあ。幼稚園児なのに「くっころ」も「らめえ」も知ってるとは思わなかった。他の幼稚園児もそうじゃないといいんだけど。
僕は園舎の中に入っていった。ここの園舎は白を基調にしたデザインで、清廉・純潔・純真といったイメージで建てられたらしい。世間の女騎士に対する風評被害をなくすために幼少の頃から徹底的な淑女としての教育も施すらしい。その割には既に穢れている幼稚園児が約1名いたけど。
園舎の中も掃除が行き届いていて、とても綺麗だ。本当にお嬢様の幼稚園と言った感じだ。小さいとはいえ、ここは女の園なのだ。ここはしっかりとデリカシーを持って彼女達と接していきたい。
「おはようございます」
僕は職員室の扉を開けた。中には先生がいて事務仕事をしているようだ。僕は一番奥の席に座っている人物に目をやる。彼女が園長先生だろう。白髪交じりで顔も
「おはようございます。ジョルジュ先生。わたくしが園長のメアリーです。よろしくお願いします」
「今日から一生懸命がんばりますのでご指導の程よろしくお願い致します」
僕は深々と頭を下げた。
「では、早速ジョルジュ先生にはリコリス組を担当して頂きますね。その……そこの子には少し問題児がいまして、新任のジョルジュ先生には大変かと思います」
「問題児ってどんな子なんですか?」
「オリヴィアちゃんって子で、その……何というか。世間一般で言う所謂えちえちな知識に興味がある子でして」
あいつかー! 僕、あいつを受け持つことになるのか!
「え、ええ……」
「その……何度も注意しても直らないんです。当園では、女騎士は高潔なものであるという理念で教育を行ってます」
そうだ。女騎士は元来高潔で絶対不可侵的な存在だったのだ。それが、ゴブリンやオークやオーガや触手やごろつきや催眠術士やらの登場によって、そのイメージは崩されてしまったのだ。
「世間一般では女騎士と言うだけで、どうせすぐにアヘるんだろとか、ケツが弱そうだとか散々な風評被害を受けています。我々はそのイメージを是正していかなければなりません。だからこそ、幼少期にきちんと教育して身持ちが堅い女騎士を育てる必要があるのです!」
園長先生の熱い思いは伝わった。僕も男ではあるが一応元騎士だ。同じ騎士として女騎士の地位向上に力を入れていきたいと思った。
「だから、オリヴィアちゃんもきちんと教育してあげたいのです。あの子はあのままでは、自分からモンスターの巣に行って快楽を求めるような浅ましい子に育ってしまいます」
確かにオリヴィアちゃんが成長したらと思うと末恐ろしい。彼女はきっと女騎士の風評被害を更に加速させる要因になるであろう。
「そうならないためにも、ジョルジュ先生。彼女をよろしくお願いしますよ」
「はい。任せてください」
口ではそう言ったものの正直不安だ。オリヴィアちゃんは僕の手に負える存在なのだろうか。
そんな一抹の不安を抱えて僕は教室へと向かった。最初の挨拶が肝心だからな僕はがらっと教室のドアを開けた。
「あ、先生だー」
女騎士の卵達の視線が僕に集まる。子供とはいえ、こんなに視線を集めると少し緊張するな。でも、第一印象が重要だ。ここはビシっと決めよう。
「僕はジョルジュ。元々騎士だったけど、膝に矢を受けてしまって幼稚園の先生に転職したんだ。得意な武器は両手で扱う大剣だ。よろしく頼む」
僕は簡単な挨拶を済ませた。その後、各自幼女騎士達に自己紹介をさせていく。
「オリヴィアです。好きな言葉はくっころです。音の響が可愛いから好きです」
おい! 自己紹介でなんてことを言ってるんだ。その言葉が好きって、私は淫乱ですって言っているようなものだぞ。取り消せよ! 今の言葉。
「くっころってなぁに?」
オリヴィアちゃんの隣にいた女の子が当然の如く、その言葉を問いただした。子供は疑問があるとすぐに訊きたがる。その習性が僕に牙を剥く。
「先生に訊いたけど教えてくれなかったんだー」とオリヴィアちゃんが答える。
「えー。先生教えてよー」「くっころってなに?」「教えて教えて」
まずい。このままでは、くっころが園内に伝播してしまう。まるで、ペストのように園内中に感染を広げてしまうだろう。なんてこった。くっころはペスト並に厄介な菌だったなんて。
「静かに……先生をあまり困らせないで」
その一言で教室中が静まり返った。助かった……救世主、女神、救いの手、くっころという絶望に包まれた世界を救う一筋の光がそこにあった。
「私はセシリア。女騎士の人権と尊厳を守るために、女騎士を目指してます。よろしくお願いします」
随分と大人びた子だな。髪型も艶のある黒髪ロングで清楚で落ち着きがあるイメージだ。まだ幼いのに人権やら尊厳なんて言葉を知っているんだ。末恐ろしいな。もしかして人生2周目なんじゃないのか?
「ねーねーセシリアちゃん」
「何? オリヴィア?」
「人権と尊厳ってなぁに?」
「う……そ、それは……ごめんなさい。わからないわ。お母さんの受け売りだもの」
何だ。流石に言葉の意味までは知らなかったのか。少し安心した。
「えっと……わ、私はアニータって言います。よ、よろしくお願いします」
アニータちゃんは、茶髪のショートカットで如何にも子供らしい風貌をしている。顔つきもセシリアちゃんに比べたら大分幼い。おどおどしている雰囲気も小動物感があって、余計に幼く感じられる。
「あはは。アニータちゃん緊張しているんだ。そうだよね。大人の男の人に慣れてないもんね」
オリヴィアがありがたく解説してくれた。そうか。ここは女騎士ばかりを集めた幼稚園。基本的に男はいないのか。だから、彼女を怖がらせてしまっている。
でも、こればっかりはどうしようもないかな。性転換なんてそんなファンタジーなこと出来ないし、慣れてもらうしかない。彼女を極力怖がらせずに仲良く出来たらいいなと僕は思うのであった。
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