第4話

明日が来るのが怖くなっていた。


仕事から帰るたびに娘が泣いていた。


妻の顔からは生気が失われていた。


妻には何度も言った。何度もなんども、言い合った。けれども彼女には何も届かなかった。


だんだんと娘は泣かなくなった。


そして笑わなくなった。


私はひとりになった。みんながひとりになった。


家庭崩壊や虐待など、テレビだけの世界だと思っていた。実際、それは想像したものより生半可なものではなく、だから怖くて誰にも言えなかった。


なぜ誰かに言えなかったのだろう?助けを求められなかったのだろう?


わからない。


今、わかるのは、人間なんて“弱い”ってことだ。結局最後に残るのは無。そう思ったら、どれだけリスが強い動物か理解できた。たった一つのドングリの取り合いで、相手を殺してしまう。


ばかばかしいけど、強いと思った。


彼女は強かったのだろうか?弱かったのだろうか?


私はある日突然激しい腹痛に襲われ、倒れた。


気がつくと病院にいてとなりには彼女がいた。


「私を殺して」


彼女は確かにそう言った。


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