第3話

無期懲役。


予想通り。やはり牢の中にはなにもなかった。なにも。


娘が生まれてからは本当に幸せだった。


仕事なんていらなかった。酒もたばこも風俗もなにもいらなかった。


娘がすべてだった。そして・・・妻を愛していた、と思う。


今となっては、どう頑張ってあのころを思い出しても、「思う」としか言えない。


ホントウニ、ココニハ、ナニモナカッタ


有給休暇はあっという間に使ってしまった。嘘をついて休みもした。まるで学校に行くことを拒む小学生のようだが、本当にそんな感じだった。


・・・そうだったはずだ。


その反面、やはりそれまでより、金がかかった。けれども苦ではなかった。いや、もはやそんなことすらも考えてなかった。娘で頭がいっぱいで、すべてが娘のために必死だった。


だからこそ、周りが見えていなかった。


気づいたときには、


もうとなりに妻はいなかった。


アメリカの貿易センタービルが崩れ落ちたときみたいに悲惨に、そしてそれが無音の中、静かに自分たちは崩れてしまっていた。崩れていた。


気づいたときにはもう遅かったんだと思う。


気づいたときにはもう妻による娘への嫉妬は始まっていた。


妻が娘に暴力を振るうようになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る