13 両想いでした

 今日は真由美ちゃんと一緒にお昼ご飯を食べた上に、一緒に下校できる幸せを噛み締めていた。


「翔太くん、帰りにスーパーに寄る?」


「いや、今日は良いかな。まだ食材があるし」


「そっか」


「あ、真由美ちゃんは何か買いたい物があるの?」


「ううん、大丈夫」


 真由美ちゃんは微笑む。


「ねぇ、翔太くん」


「ん?」


「その、あの……手を繋いでも良いかな?」


「えっ?」


「やっぱり、恥ずかしい?」


「いや、そんなことは無いけど……」


 僕は周りをキョロキョロ見てしまう。


「私は、他の誰かに翔太くんとそうしている所を見られても、平気だよ?」


 真由美ちゃんは頬を赤らめながら言う。


「あ、あのさ。前から気になっていたんだけど」


「う、うん」


「真由美ちゃんはその……もしかして……僕に好意を持ってくれているの?」


 って、自分で何を言っているんだ。


 すごく恥ずかしい奴だぞ、僕。


「……うん、そうだよ」


「ほ、本当に? な、何で僕みたいな奴のことを?」


「何だろう、1年生の時から同じクラスで、段々と翔太くんと触れて行く内に、その優しさとか、可愛らしさにキュンとしちゃって……」


「か、可愛いですか、僕は?」


「う、うん」


「それは、男としてどうなんだろう?」


 僕は軽くへこんでしまう。


「わ、私は、あまりオラオラな感じの人は好きじゃないから……たぶん、お姉ちゃんの彼氏とかがそんな感じだったからかな?」


 その話を聞いて、軽く胸の奥が疼いた。


「へ、へえ。そうなんだ」


「ご、ごめんね。こんなこと言われても、嬉しくないよね?」


「いや、そんなことはないよ」


 僕は改めて真由美ちゃんを見つめる。


「僕も、ずっと真由美ちゃんのことが好きだったから」


「えっ……本当に?」


「本当だよ」


「私、お姉ちゃんみたいに胸が大きくないよ?」


「いや、僕はそんなおっぱい星人じゃないから」


「そ、そっか」


 僕らはお互いにとても恥ずかしい気持ちになってしまう。


「い、良いのかな? お姉ちゃんも翔太くんのことが好きなのに。私だけこんな風に抜け駆けしちゃって」


「い、良いんじゃないかな? そもそも、灯里さんは僕のことをからかっている感じだから」


「そうかもね」


「じゃあ、さ」


 僕はスッと手を出す。


「手を繋いでも良いですか?」


 バカ正直に僕はそう言った。


「うん、お願いします……」


 真由美ちゃんは照れながら、そっと僕の手を握り返す。


 それから、お互いに照れながらも、手を繋いで一緒に歩いて行った。




      ◇




「あの、灯里さん。大事なお話があります」


「ん?」


 肉を頬張った灯里さんが目をパチクリとさせる。


「実は僕と真由美ちゃんは……両想いだったんです」


 とても恥ずかしい思いをしながら、僕はそう言った。


 灯里さんはゴクリと肉を飲み込む。


「でしょうね」


「「えっ?」」


「だって、二人の様子を見ていたバカでも分かるよ~……って、誰がバカだ~!」


「いや、自分で言ったんでしょうが、マジでバカなんですか?」


「むぅ~、翔ちゃんのくせに生意気だぞぉ」


 灯里さんはプクッと頬を膨らませる。


「じゃあ、そのことを知っていながら、何で真由美ちゃんと僕を奪い合うなんてことを……」


「だって、面白そうだったから」


「面白そうだって……」


「それにまあ、可愛い妹の恋路を応援したかったしね」


「そ、そうなの? むしろ、邪魔されていたような気が……」


 真由美ちゃんは言う。


「だって、真由美は一年生の時から言っていたもの。気になる人がいるって。それって、翔ちゃんのことでしょ? けど、奥手な我が妹はなかなか前に進めなくてね。だから、あたしがライバルみたいな感じで対抗すれば、真由美も積極的になれるかなって」


「あの、もしかして、灯里さんは僕と真由美ちゃんの関係を知っていて、僕に拾われて……」


「いやいや、そこまで何でもお見通しなお姉さんじゃないから。翔ちゃんと出会ったのは本当にたまたま、偶然だから」


「あ、そうなんですか」


「けどまあ、めでたいねぇ。だから、今日はすき焼きなのか」


「まあ、そうです」


「ねえ、翔ちゃん。あたしに出て行って欲しいかな?」


「えっ?」


「その方が真由美と二人きりになれるでしょ?」


「いや、それは……」


 その時、淡く微笑む灯里さんが、何だか遠くに行ってしまいそうに感じて……


「……僕は、しばらく今の同居生活でも良いかなって思います」


 真由美ちゃんの方を見た。


「ダメかな?」


「う、ううん。ここは翔太くんのお家だから、翔太くんがそう言うなら。それに私は、お姉ちゃんにお礼を言わないといけないし」


「そんな水臭いこと言うなって。姉妹じゃん」


 灯里さんはコロコロと笑って言う。


「お姉ちゃん……ありがとう」


「そんなことよりも、真由美も遠慮せずに肉を食べなさい。そうしないと、おっぱいが育たないよ? 大きい方が、翔ちゃんも喜ぶだろうし」


「ちょっと、灯里さん。勝手なことを言わないで下さい。例え小さくても、僕は真由美ちゃんのことが好きなんです」


「しょ、翔太くん……」


「あら、お熱いことで」


 灯里さんはまたからかうように言う。


 やっぱり、ちょっとムカツクお姉さんだけど。


 何だかんだ、居なくなったら寂しいなと思うから、もう少しこの3人暮らしを続けたいなと思った。







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