12 好きな女の子と一緒にお弁当を食べる

 今の僕は軽くハーレム状態だ。


 それは男のロマンの一つだし、他の男子が知ったら泣いて羨ましがることだろう。


 けれども、僕は疲れていた。


「おい、翔太。お前、最近なんか疲れてばかりだな」


 大樹が言う。


「まあ、ちょっとね……」


「もしかして……シコりまくってんのか?」


 即座に否定したかったけど、ぶっちゃけ当たらずとも遠からず。


「そうか、シコりまくってんのか」


「違うよ……」


 僕は机に突っ伏しながらそう否定した。


「翔太くん」


 そんな腐った状態の僕は爽やかな声に呼ばれる。


「あ、真由美ちゃん……」


 彼女は僕の席の前に立つと、ニコっと笑う。


「なあ、前から気になっていたけど……お前ら、付き合ってんのか?」


「「へっ?」」


「だって、いつの間にかお互いを名前で呼び合っているし」


「あ、いや、それは……」


 僕は何と答えて良いか分からず、口ごもってしまう。


「お、お付き合いはしていないよ」


 真由美ちゃんは言う。


「けど……前よりも仲良くなったから」


「へえ、そうなんだ」


 大樹は軽くそう言って、それ以上は詮索をしなかった。


「翔太」


「え?」


 大樹は僕の耳元に口を寄せて、


「お前が疲れていたのは、須藤とヤリまくっていたからなんだな」


「なっ……」


「みなまで言うな。仮にもお前の親友だからな、理解しているよ」


「いや、全然理解してないからな!?」


 文句を言う僕に対して、大樹は何か悟ったような顔で肩ポンをして去って行った。


「川本くん、何て言ったの?」


「へっ? い、いや、何でもないよ?」


「そうなんだ……ねえ、翔太くん」


「なに?」


「今日のお昼なんだけど……一緒に食べない?」


「えっ?」


「ほら、お弁当を翔太くんが作ってくれたでしょ? だから、きちんとお礼と感想を言いたいなって思って」


「そ、そうなんだ……」


 真由美ちゃんと一緒にお昼ご飯を食べるなんて、最高に嬉しい誘いだ。


 けれども、そんなことをしたら、僕と彼女の仲が疑われたりとか……


「……気にしないよ」


「えっ?」


「私は周りの人にどう思われても……気にしないの」


 真由美ちゃんは頬を赤らめてそう言った。


 好きな子にそこまで言われたら……


「……じゃあ、一緒に食べようか」


 僕が言うと、真由美ちゃんは嬉しそうに笑ってくれた。


「うん」


 この笑顔を、ずっと守りたいなと思った。




      ◇




 明るい校庭のベンチに彼女と座ってランチ。


 そんなの、リア充だけの特権だと思っていた。


 僕みたいに平凡で冴えない男子には無縁のことだと思っていた。


「い、良い天気だね」


「そ、そうだね」


「は、早く翔太くんのお弁当を食べたいな」


「そ、そうだね」


 ヤバい、さっきからお互いに会話がぎこちな過ぎる。


 家ではもっとスムーズに会話が出来ているのに。


 やっぱり、どうしても周りの目が気になってしまう。


 僕みたいな奴が、真由美ちゃんのような学園の人気者と二人きりでお弁当を食べているなんて。


「あのね、翔太くんのお家だと、お姉ちゃんにリードされっぱなしだから」


「うん?」


「だから、学校で少しでも翔太くんと一緒に居たいなって……思ったの」


 真由美ちゃんは照れながらも、真っ直ぐに僕を見つめて言ってくれる。


「……僕も、もっと真由美ちゃんと一緒に居たいと思うよ」


「本当に?」


「だって……す、す……」


 くそ、好きだからという一言がこんなにも重たいなんて。


「……す、すぐ食べないと、お弁当が悪くなっちゃうよ」


「あ、そ、そうだね」


 くそぉ、このヘタレ男子がぁ!


 けど、真由美ちゃんは何だか楽しそうに笑ってくれている。


「わぁ、美味しそうな唐揚げだ」


「うん。あ、でも女の子はもっとヘルシーな方が嬉しいかな?」


「ううん、大丈夫。それに、ちょっと唐揚げとか食べようかなって思っていたの」


「へえ、どうして?」


「えっと、その……む、胸が大きくなるかなって」


「ぶふっ!」


 僕は思わず噴き出してしまう。


「しょ、翔太くん。大丈夫?」


「だ、大丈夫……けど、何でまた、胸を大きくなんて……」


「だって、お姉ちゃんは大きいから……翔太くんも、その方が嬉しいのかなって」


 真由美ちゃんは少しだけ口を尖らせて言う。


「いや、確かに大きな胸は魅力的だけど……僕は、手の平に収まるサイズも好きと言いますか……」


「……エッチ」


「なっ……ご、ごめん」


「くす、冗談だよ。ありがとう、翔太くん」


 真由美ちゃんはニコリと笑う。


「いえ、どういたしまして」


「ねえ、せっかくだから、『はい、あーん』とかしてみる?」


「えっ!?」


「そんなに驚かなくても良いじゃない」


「は、はは……それは……また今度で」


「照れ屋さんなんだから」


 真由美ちゃんは飛び切りの笑顔を見せてくれる。


 ああ、やっぱり可愛いな。


 僕はこの子が好きだと、改めて思った。







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