7 まさかの訪問

 僕が憧れて好きな女の子、真由美ちゃん。


 いつも爽やかで明るい優等生な美少女。


 僕が拾ってしまった女の人、灯里さん。


 とにかくエロくてワガママな年上の美女。


 まさか、この二人が姉妹だったなんて……


「どした、翔太。そんな風にたそがれて」


 僕は屋上でボーっとしていた。


 隣にいる大樹が声を掛けて来る。


 一瞬、親友である彼に相談しようかと思ったけど、やはりやめておいた。


 拾った美女が憧れの美少女のお姉さんだったとか……言えない。


 しかも、僕らのクラスメイトとか……ね。


「いや、何でもないよ」


「そうか」


 大樹は特に詮索をすることもなく、同じように空を仰いでたそがれている。


 あの後、衝撃の事実が発覚した際のこと。


 僕は言い争いをする姉妹を何とかなだめた。


 そして、まず頭に浮かんだのは、彼女たちの両親に対する謝罪だ。


 年頃の娘さん2人をたぶらかしてしまったのだ。


 全くそのつもりは無かったのだけど。


 僕は非常に緊張しながら正座をして彼女たちの両親と対面をした。


 けど、意外なことに、その話し合いは和やかだった。


「まあ、翔太くんってば、お料理が上手なのね~」


 真由美ちゃんと灯里さんの親だけあって、お母さんはとても美人だった。


 その美人なお母さんが僕の料理の腕前を褒めてくれたことがきっかけで、場の空気が一気に和んだのだ。


 また、一人暮らしをしていることを話すと、お父さんも感心してくれた。


 むしろ、そんな所に灯里さんを連れ込んで怒られると思ったのだけど……


「早い内から自立を心掛けるのは良いことだ」


 笑顔でそう言われた。


 いえ、ただ自由になりたかっただけなんです……申し訳ない。


「じゃあ、これからも、あたしは翔ちゃんと一緒に住んでも良い?」


 灯里さんは嬉々として言うのだが、


「「「それはダメ」」」


 ご両親、そして真由美ちゃんも含めた家族に反対され、あえなく撃沈した。


「え~ん、もっと翔ちゃんと一緒に居たかったのに~」


「ダメったら、ダメなの!」


 泣き喚く灯里さんを真由美ちゃんがきつく叱っていた。


 そして、久しぶりに静かな一人暮らしが戻って来たのだ。


「ふぅ……」


 僕はコンロに鍋を置き、火を付ける。


 少し寂しいけど、仕方ない。


 あのままの状況を続けておく訳には行かないのだから。


「んっ、これでオッケーだ」


 僕はみそ汁の味見を終えると、火を消す。


 ちょうどそのタイミングで、スマホがLINEを告げた。


「えっ……真由美ちゃん?」


 そこに記してあったのは、


『翔太くん、こんばんは。お姉ちゃんが迷惑をかけて本当にごめんね。お詫びをしたいから、今からお邪魔しても良いかな? 菓子折りを持って行きます(‘◇’)ゞ』


 意外にも茶目っ気のある顔文字を使っていた。


『そんな気を遣わなくても良いよ』


『ううん、私の気が収まらないから』


 それから、僕のアパートの場所を教えて、しばらく待っていると……


 ピンポーン。


 玄関のチャイムが鳴る。


「は、はーい!」


 僕はドキドキしながら、玄関ドアを開ける。


「こ、こんばんは」


 そこには、私服姿の真由美ちゃんがいた。


 は、初めてまともに見たけど……か、可愛い。


 その手には紙袋を下げていた。


「あ、立ち話もなんだから、どうぞ中に」


「ありがとう」


 真由美ちゃんは微笑みながら我が家に足を踏み入れる。


「ごめんね、いきなり。やっぱり、迷惑だったかな?」


「いや、そんなことはないよ」


 僕は真由美ちゃんをリビングに通す。


「ここが、翔太くんのお部屋なんだね」


「うん。男くさいでしょ?」


「ううん、良い匂いだよ」


 言った直後、真由美ちゃんはハッとする。


「ご、ごめんなさい。変な意味で言ったんじゃないの!」


「お、落ち着いて、真由美ちゃん」


「う、うん。ごめん……」


 僕らは照れたまま俯き合ってしまう。


「あ、コレ。お詫びの印に」


「わざわざ、ありがとう」


 僕は受け取る。


「そういえば、夕ご飯は?」


「あ、これからお家に帰ってかな。でも、今日はお母さんが留守だから、自分で作らないとだ」


「そうなんだ……良ければ、一緒に食べる?」


「えっ?」


「ちょうど今、みそ汁が出来た所なんだ。もちろん、ごはんとおかずもあるよ」


「そ、そんな、迷惑をかけた上にごちそうになるなんて……」


「遠慮しないで」


「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えようかな……」


 真由美ちゃんは言う。


「うん、待っていて。すぐに用意するから」


「あ、私も手伝うよ」


「本当に? ありがとう。灯里さんなんて全然、手伝ってくれなかったよ。ソファーに寝転んでばかりでさ」


「そ、そうなんだ……」


 灯里さんの名前を出すと、心なしか真由美ちゃんの声のトーンが落ちた気がした。


「真由美ちゃん、もしかして、灯里さんのことがあまり好きじゃないの?」


「へっ? そ、そんなことはないけど……」


「うん」


 僕はみそ汁をよそいながら、真由美ちゃんの声に耳を傾ける。


「……う、羨ましいなって思って。翔太くんと、二人きりで同居していたなんて」


「うん……えっ?」


 僕はみそ汁のおわんを持ったまま硬直した。


 真由美ちゃんは頬を赤らめながら僕を見つめている。


「……良い匂いだね、おみそ汁」


「あ、うん」


「早く食べたいから、おかずとかも運んじゃうね」


「あ、ありがとう」


 僕はぎこちなく頷いた。







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