6 姉妹に挟まれて……

 それまでは、申し訳なくも幸せな空間だったのに。


 今は一気に修羅場と化していた。


「ねえ、お姉ちゃん、どういうことなの? 沢村くんと知り合いなの?」


「知り合いって言うか……同居しているよ」


「えっ?」


「あたしが家出をして途方に暮れていた所を、翔ちゃんが助けてくれたの」


 灯里さんが不敵に微笑んで言うと、須藤はおもむろに僕の方に顔を向ける。


「本当なの、沢村くん?」


「いや、その……うん、実は……灯里さんと一緒に住んでいます」


「もしかして、私のお姉ちゃんだって知っていて?」


「それは知らなかったよ! 本当に!」


 僕は慌ててそう言った。


 須藤の表情は優れない。


 再び、灯里さんの方を向く。


「お姉ちゃんはいつもそうだよ。自分勝手で……最低。寄りにもよって、私のクラスメイトの……沢村くんの所に転がり込むなんて」


「まあまあ、そう怒らないで。現にこうして帰って来た訳だし」


「だから、それが勝手なのよ!」


 須藤は叫ぶ。


 いつも笑顔で爽やかな彼女のこんな一面を見るなんて……


「それよりも、真由美。学校は良いの?」


「でも、沢村くんが……」


「大丈夫。翔ちゃんの看病はあたしがするから。翔ちゃんも、その方が嬉しいよね?」


「いや、僕は……」


「ほら、真由美。そんな所でボーっとしていないで、早く行きなよ」


 灯里さんは尚も不敵に微笑みながらそう言った。


「何よ……お姉ちゃんばかり」


 須藤が小さく手を震わせて言う。


「私だって、沢村くんの……翔太くんの面倒を見るんだから!」


「えっ?」


 須藤は僕に抱き付きかけていた灯里さんを突き飛ばす。


「あんっ」


 灯里さんは嫌らしい声を出した。


「もう、乱暴なんだから」


「お、お姉ちゃんがいけないんだもん」


「どうしてそんなにムキになるの? もしかして、真由美ってば翔ちゃんのことが好きなの?」


「なっ……そ、それは……」


 途端に、須藤は顔を真っ赤にして、チラと僕を見た。


「しょ、翔太くん」


「あ、はい」


「翔太くんはお姉ちゃんのことを名前で呼ぶの?」


「え? まあ、一応……」


「じゃあ、私のことも名前で呼んでよ」


「へっ? ま、真由美……ちゃん?」


 僕がそう呼ぶと、彼女は少しだけ嬉しそうに笑った。


「う~ん、青春って感じね」


「ふん、だ。お姉ちゃんが邪魔をしなければ、もっと青春っぽいもん」


「あら、言ってくれるじゃん。生意気な妹ね。まあ、日々成長している訳だけど……」


 灯里さんは真由美ちゃんに歩み寄ると、背後から胸を掴んだ。


「ここの成長は、まだまだかなぁ?」


「なっ……」


 灯里さんは赤面する真由美ちゃんの胸をひたすらにモミモミしている。


「あ、でも、Bカップくらいにはなったかな?」


「ちょ、ちょっと、翔太くんの前で……あああああぁん!」


 ごめん、真由美ちゃん。


 正直、興奮して鼻血が出そうです。


「ちなみに~、翔ちゃんは巨乳と貧乳のどっちが好き? 当然、大きい方が良いわよね~?」


「しょ、翔太くん……大きさが全てじゃないんだよ……」


「真由美はちょっと黙っていなさい」


 ぎゅっ。


「うあああああああぁん!」


「も、もうやめてあげて!」


 僕は堪らず叫んだ。


「真由美ちゃんが嫌がっていますよ」


「ちぇ~、分かったよ」


 灯里さんは意外と素直に言うことを聞いてくれる。


「はぁ、はぁ……ありがとう、翔太くん」


「う、うん」


 少し涙目で言う真由美ちゃんの姿がエロかった。


「はい、じゃあ、真由美は学校に行く。あたしは翔ちゃんとイチャつくと」


「何だよ、イチャつくって」


「え~、嫌なの?」


「ちょっ、あまりくっつかないで下さい。真由美ちゃんの前で……」


「何よ、何よ~? あたしの方がおっぱい大きいんだぞ~?」


 嫌がる僕に灯里さんはしつこく迫って来る。


「わ、私だって……」


 すると、真由美ちゃんが僕の方に駆け寄って来て、そのままぎゅっと抱き付いた。


「えっ?」


「だ、だから、私が翔太くんの面倒を見るって言ったでしょう?」


「優等生のあんたが学校をサボる気?」


「ちょ、ちょっとくらい平気だもん」


「ふぅ~ん、言うようになったねぇ」


 灯里さんはニヤつきつつ、僕の方を見た。


「あたしの可愛い妹をたぶらかすなんて……翔ちゃんにはお仕置きが必要かな?」


「えっ、いや、僕は一応、病人なので……」


「問答無用だよ♡」


 直後、僕の顔面は灯里さんの巨乳にプレスされた。


「ぎゅっ、ぎゅっ……と♡」


「むぐぐぐぐぐぐっ!?」


「ちょ、ちょっと! お姉ちゃんのバカ! 翔太くんが死んじゃうでしょうが!」


 それからしばらく、僕はこの仲良しな(?)姉妹にサンドイッチされていた。







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