第二十六話 初ダンジョン探索


「ミレイそっち行ったぞ!」

「わかってる!いっけ!」


「大剣の命中ロール...60以下成功...54...成功、ダメージロール、1D8...2」


背後からスプラッタが振り落とした剣が、羽大蛇スカルプの羽の付け根にあたるが浅い。


襲われたことに驚いた羽大蛇スカルプがその羽で逃げようと羽ばたかせるが、体の割に羽が小さいため、ゆっくりとしか上昇しない。そこにかかさずミレイが追撃を仕掛け、叩き落とした。


「ナイス、スプラ。初めてのダンジョン内の獲物だぜ」

「そっちこそ。丘から奇襲よく間に合ったな」

「これぐらい朝飯前よ」


今ミレイ達がいる第一階層は、見上げても眩しくない擬似太陽と、地上の平原友利が合わさった原始的なマップだ。先ほどは、3人がモンスターがいると踏んでいた森付近を進み、木陰で休憩していた羽大蛇スカルプを狙った。今は首が飛んで体が消滅したと思うと、紫色の四角形の

宝石が出てきた。これが魔石なのだろう、太陽の光に照らすと中で少し濃い目の同色がゆらゆらと蠢いている、綺麗だ。


すると同体の色素が少し薄めの色をした物の首を掴んで、グレイが森の奥から引っ張って来た。

向こうの方が大量にいるとのこと。


しかしやはりまだまだ一層目だ、そんなものに時間を割くよりも次に進む方が経験的にもいいだろう。


となるとフロアボス階層の主を倒す必要がある。クリアしたことのあるパーティーならば出現させずに進むこともできるが、自分たちはさっきダンジョンに潜ったばっかりだ。


一週間という期間が経った時はギルドの隠し道を使って強制的に五階層まで連れて行かれて踏破した事にするらしいが、出来ればそれまでに自分たちの足でやってみたい。


「てことでその群は放置して次の階層目指そう、まだもの足りないだろ正直?」

「群れならやりごたえあると思ったけど、正直自分もそう思っていたので自分はそうしたいです」

「...みんながそう言うなら俺もいいぞ、変に否定してもグダグダするだけだしさ」


初のダンジョンモンスターを切ってみて、難易度が易しいと感じたスプラッタはそれに肯首。

群れとはいえど、その数を今一度考えてみて、どちらにせよ直ぐまたいなくなると感じたグレイも思案した後それに頷いた。



大事なことを説明すると、ダンジョン内マップという地形把握機能が表示される。見た目は表示数を極端に減らしたカーナビみたいなものだ。

これは個人ごとに表示されて、その人が今まで通ったことがある道が迷路をペンでなぞった様に表示され、そこに赤の点と緑の点があり左端に赤が密集しており、二つの緑が近くに表示されている。となると赤がモンスター、緑がパーティメンバー、となる。


そのまま小一時間歩き回っていると地面に亀裂が入った入り口のようなものを見つけた。

ダンジョンに入る前に店で買った松明に火を灯しながら奥に入っていき、たまに松明の光に驚いた蝙蝠が羽音を立てながら飛び立っていく以外には特に驚く事はなく、すぐに少し苔の生えた扉が姿を表した。


形状は特に変なところはないが、横開きの取手のところだけが苔が生えていないので間違いなく

フロアボスの部屋だろう。


壁に生えているつるに火を移し、バックにしまった後グレイが話しかける。


「体力とか問題ないよな?」


背後の警戒をしていたスプラッタが注意を一旦解き体を軽く動かして「問題はない」

と言った。自分はまだ第一階層とはいえ冒険という冒険と言うものをしていなかったせいか体が少し強張っている。自分のパラメーター能力を過信しているわけではないが

休憩は取らなくてもいいだろう。


「自分もいいぞ、いていうなら緊張してる」

「それは俺も一緒だって、初めてのダンジョン探索ってだけで心の中を燻られている気分なんだから」

「つまりどういうことだ?」

「楽しみってことよ」


そう言ってニカっと笑った後呼吸を一つ、そして手をかけて石と石の擦れる音とともに全て開くと、中には大きい倉庫ほどの広さの部屋フロアが広がっていた。


武器を手にとり3人が中に入ると、扉がゆっくりと閉じ部屋が真っ暗になると壁から青白い炎が囲んでいくように灯っていき、一周すると部屋の真ん中に徐々に紋様が現れ赤くひかると、ボロボロの金属製の腕の長さとほぼ同じの刀身の剣と防具を持った骸骨の騎士スケルトンナイトが五体現れ、目を炎と同色にギラっと光らせるとこちらへ二体走って来た。



「戦闘開始、ダンジョンシステム上強制先制が発動します」


フロア全体にダイスシステムの声が響くと同時に先頭に立っていた一人目の骸骨の騎士スケルトンナイトが振りかぶってくる。咄嗟に鞘から剣を抜いてそれを受け止める


「スケルトンナイトの斬撃...40以下成功...32...ミレイとの鍔迫り合い...STR対抗...

骸骨の騎士スケルトンナイトのSTR、10...ミレイ...13...走り切りのため確率上昇

55以下成功...97大失敗ファンブル次のミレイの攻撃を必中とします」


勢いのまま振りかぶってきた剣を足に力を込めて跳ね返し、そのままよろめいている所に叩き込む。


命中ヒットの判定を排除...ダメージロール...9、ダメージボーナスは防具により無効」


首(らしきところ)に斜めから切り裂いていき肋骨までなんとか刺さるが、欠損した骨ではない残りの部分で体の形を維持している。しかしバランスが悪く動きにくいのかカラカラと音を立てている。


その後ろに控えていた二体目のスケルトンナイトがまた切り掛かってくるが、横からスプラが身体をぶつけて地面に倒した後、大剣を正面に持つのではなく横腹を下に向け2メートルほど飛んだと思うと、その上に乗り、重力に任せて叩きつけその上から自分の体でプレスし、その荷重に耐えることが出来なかったのか骨が粉砕されたボキボキという音が鳴り響く。


そこからスプラが立って、押しつぶされたスケルトンナイトをチラッと見てみると、押しつぶされた所は、防具ごと原型を留めておらず骨粉と化しその残された部分が吹き飛んで、活動を停止させていた。


そして体勢を戻した一体目のスケルトンナイトがこちらにもう一度襲いかかってくるが、地面にひしゃげられている仲間を見ると、目をギョッとしたかのように目の炎を強くさせて、茫然としているように元々開いていた顎が外れる。


そこに容赦なく素手で横から思いっきり殴るとそのまま動かなくなり、周りにいた骨の残骸が消えると、クリアっぽい音とともにダイスシステムが音を鳴らした。


「五体の骸骨の騎士スケルトンナイト討伐を確認。対応者ミレイ、グレイ、スプラッタへ次の階層への挑戦権を付与。第一階層クリア、おめでとうございます」



ダイスシステムの音が鳴り響いた後フロア自体が発光しているように白色に明るくなり目をしかめると同時に一気に脱力感が襲ってきた、緊張から解き放たれたのである。


床に腰が落ち一息ついて周りを見てみると、グレイは腰に自身の武器である『サグロナク』徹甲金剛拳を腰にかけ手をさすっている。

骨を潰し今回のクリアの立役者であるスプラは、滴れている汗を拭き取りその大剣を背中に背負った後何事もなかったかのようにこちらに話しかけてきた。


「お疲れ、意外と簡単だったな」

「...お、おう。お疲れ...さっきの技?は何よ」

「技とは?」

「ほら、さっきの上から潰しにかかったアレのこと」

「ああ、あれのことね。そんなに変なものでもないぞ?攻撃に入る前に幾つかの技能を使って攻撃の技を変えるんだよ、さっきの技は『プレス』って技で、跳躍、大剣、波乗りっていう順番で全て成功したら攻撃対象に行動不能とダメージが1.5倍を与えるんだよ。するのは自分くらいだけど結構有名だぜ?」


そして少し離れるように言われたのでその通りにすると目の前で実践して見せた。

一連の動作は洗礼されていて危なげそうなところも無く、まさにベテランの動きであった。


「すげえな、どれくらい練習したんだよ」


いつの間にかこちら側に寄ってきたグレイがそう問うと「ほぼ毎日やって半年かかった」と帰ってきた。そりゃ上手くなる。


そして中央に次の階層へと進む青の光と、ダンジョン入り口に転移する黄色の光が出現し、体験だけで済ますだけの予定であった3人は迷うことなく黄色の光を選択しその上に乗ると一瞬視界が暗くなると同時に、ダンジョンに入るところの横にあった部屋に転移し、後日残りのスプラッタのパーティーメンバーと顔合わせをするという約束を交わし、そこで解散した。



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