二十五話 夜の冒険へ
「部屋あったぞー、失礼しまーす」
自分たちの部屋があるところに向かい、部屋の事務を担当する受付の方から受け取った鍵を使って扉を開ける。
部屋自体は現状のパーティーメンバーの数で広さが変わり、一般的には一人当たり8畳程の広さが割り当てられる。多少持ち金に余裕がある人は自宅を持って、そこを拠点に冒険者家業をする人がいるらしい。ついでに言うとLDKで、宿というよりも冒険者用のマンションである。
そして王都冒険者ギルドに誘致が掛かって来たパーティーは部屋代が無料になる、大盤振る舞いだ
「ふいー、なんか疲れたな」
フローリングに腰を下ろしながらグレイが呟く、長旅からのすぐさまギルドへの移転登録と説明、いつの間にか疲労が溜まっていたのだろう。
自分も、防具一式を脱ぎ、部屋の隅に置いた後バックを枕に寝転ぶ。
「どうする?観光に行くって話だけど。今から行くのもなんか疲れるし」
「どうするかな...いきたいとは言ったけどさ、ちょっとだけ仮眠とっていいか?なんかだるい」
「わかった。じゃあ自分も少しだけ寝るわ」
部屋の窓扉を開き、ベランダの塀に止まっている小鳥の囀りに耳を傾けながら陽の光にフワフワした暖かさを感じると眠気が徐々に溜まり、まぶたが重みを増してそれに抗うことなく意識を落とした。
目が覚めたのはちょうど夕方。昼飯を食べていなかったからだろう、少しぼーっとしていると腹の虫が大きな自己主張をした。その音でグレイの目が覚める。
「...ふんぅぅぅ!、はぁ、誰だ?盛大に腹鳴らしたやつは」
「...おはよう、仕方ないだろ飯食ってなかったんだからさ」
「じゃあ食ってからダンジョン初挑戦でもするか、腹ごなし程度にさ」
肯首し、部屋を出る。
広場に降りて物の焼けた匂いが充満した空気を吸うと、また小さく腹がなる。
息だけでここまで鳴るとなると、相当腹が空いていたらしい。腹痛にならない程度食べよう。
「どれにする?この後行くとしたらそこまでガッツリとしたもの食べれないだろ?」
「うーん、でもそこまで大量に食わなかったら横腹は痛くならないだろ、それかペースを落として食うとかさ」
鉄板にほぼ一面が埋まるかどうかの大きさの肉を焼いてる風景を見ながら次々と店前を横切る。
肉類、パン類、麺類...丼もの...丼もの!?米か!米なのか!?
4つ目の店を横切った時に器型の絵を見て反射的に反応してしまう、スザッと動いたために受付で接客をしていた男の人の営業スマイルが引きつっている。
「あっすみません!」
周りの視線を集めてしまったので変に集めないよう静かに退散する。
そのまま並ぶのには胆力が足りなかったので残念そうに帰ると、不思議そうな顔でこちらを見ていた昼の3人組みパーティーの男の人と目が合う。すると少し笑みを浮かべて近づいてきた。
「どうも」
「こんにちは...いえ、こんばんわかな」
「今の時間帯ではこんばんはでしょうかね、えーっと名前を聞いてもいいですか?」
「さっきそういえば、名乗ってませんでしたね、自分はミレイっていう名前で『TRPG攻略組』というパーティーのリーダーです、まあ唯一の女性である先輩が修行の旅で今は二人なんですけど。同期同士、頑張りましょう」
「そうですね、こちらこそ宜しくお願いします。俺は『スプラット』って名前で、『
元の街からの幼馴染みで、一緒に冒険者か...異世界だな...
少し妄想に耽っていたが、さっきから誰かがやってくる気配が一切ない、修哉は何かを会に行ってるとして、スプラットさんの仲間は?
「えーっと、他の二人はどこへ?」
「やっぱりそうなりますよね、はい、二人は王都探索だ!って観光名所に二人で行ってしまったんですよ。自分も行こうとしたんですが『今日は二人だけの女子会だよ!』って言って分断行動です」
「は...はあ、お気の毒に...」
「いえ、男一人というの、馴れてしまえば楽しいものですよ何かと騒いだとしても『うるさい!』とか言われませんからね」
そういう彼の顔は少し遠目だ、尻に敷かれているのか...
暇ならダンジョンに誘ってみるか、二人だけでダンジョンに潜るというのも人手が足りなさそうな気がしてたし。
「そこでなんですけど、もし良ければご飯を食べ終わった後、一緒にダンジョンに潜りませんか?
明日から本格的な活動をするので、その予行演習をしておきたくて」
そういうと少し考えるそぶりを見せた後同意してくれた。部屋に荷物が全部届いてないせいでやることがなかったらしい。
「でも明日からはライバルですからね、ギシギシするつもりはありませんが高めあっていきましょう」
「勿論です、それじゃ私はご飯を買いに行ってきますので」
「了解です」
席を立ち、先程の丼屋さんに並ぶ。どうやら諦めてはなかったらしい。
「お、ミレイさんは肉丼ですか」
自分が持ってきた厚めにスライスされた肉に甘辛そうなソースを垂れさせ、黄身が上に載った丼を見てそう切り出した、そういう彼はステーキである。
「スプラッタさんも肉を選んだんですね、お好きなんですか?」
肉の焼ける音と芳醇な香りが広がり鼻腔の奥をくすぐる。いい匂いだ。
「ええ、この音が好きでほぼ毎日食べてます」
そこに二玉の麺と器を持った修哉がやってきた。
「お、やっぱり肉食ってる。こんばんはさっきぶりですね」
「えーっとはい、にしてもすごい筋肉量ですね、どうやったらその体が出来上がるんですか?」
そのはち切れんばかりの筋肉を目に、そう聞く。
「まあ、生まれつきですね、人よりは多めに食ってはいますが」
「それでもそんな体には絶対にならないですよ、恵まれていますね」
その後も、再度自己紹介とちょっとした雑談に花を咲かしながら、口の中に広がる旨味を頂いた。
部屋に戻った後、装備一式を着用し転移したところのギルド広場入り口で集合した。
スプラッタの装備は、鉄全体装備でスパタを長く太くした大剣を背中に背負っている。
「では行きますか」
「わかりました、今日はよろしくお願いします」
「そんなに堅苦しくなくていいぞ、ミレイは硬そうで意外とめんどくさがりだからな」
「今それ言うかよ、もうちょい仲良くなってからっていうかさ」
「いえ、そこまでかしこまらなくていいですよ、なんなら呼び捨てにしてもらうと普段通りに振る舞えるような気がするのでむしろそうして欲しいです」
「...わかった、よろしくなスプラ、めんどくさいからあだ名で行かせてもらうわ」
ミレイがそういうと、嬉しそうな爽やかな笑顔を浮かべる。
「はいこちらこそ」
中央の昇降版を操作してもらい、ダンジョン前の入り口にたどり着く。
小さな広場のようなそこにはダンジョン入口である階段の横には衛兵が二人立っており、その近くには小さなポーション屋等の探索に必要な消耗品が売っている店が数件建っており、
他にも魔法陣が一帯中に描かれている場所や、草が生えている休憩場所のような場所もあった。
結構、粗雑ではなく管理が行き届いており最前線ではあるがそこで談笑している人たちもちらほらいる。落ち着くのだろうと思ったが、少し冷えているこの場所は心が静かになるように感じる。マイナスイオンでもどこからか発しているのだろう。
蝋燭と松明に照らされた洞窟のエントランスで最終チェックを行う。
「で、今日はダンジョン体験ってことで第一層で体を鳴らすっていうのがメインでいいんだよな?」
「おう、じゃ行くか」
と言って階段を降りていって石でできた階段を降りて行った。
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