第二十七話 観光

次の日はスプラッタ曰く、三人で過ごしたいと女二人組に頼まれ

街中を散策し、その後拠点に戻ったら買い物に行った成果を見せられて、

服の感想や似合っているかどうかの意見を求められるらしい。

毎回そうだというので彼自身うんざりしているが、それを口に出した時の反応が想像するだけで怖くて、そうそう出せるものじゃないそうだ。


スプラにはなんの恨みもないが、せいぜい壊れたラジオのように反応してもらうとしよう。

その後で、心のケアを酒を飲みながらするのだ。

決して、幼馴染みを持っていて、そして好意をスプラにぶつけていると思われる二人の気持ちに

気付いていない、鈍感系主人公のようになっている彼に、嫉妬したわけではない。

決してだ。


ダンジョンに潜って、どんなものか物色してみるという目的は果たしているため、

そのパーティーの一員ではない俺は、何も言わないのが当たり前だろう。

まあこんなことを気にしているのも、俺くらいだと思うが。

うんやっぱり自分で言うのもなんだが、そうとう気持ち悪いな、俺。



そんなこんなで、今日くらいは少し気を抜いていこう。

疲れを自覚はしていないが、ただでさえこの所動き通しだ、多少は潜在的に溜まっているだろう。


そこで俺たちは、気晴らしの為に王都の観光地巡りに行ったのだが...説明はいるか?

一言で言ったらそう、全てがでかい。うん、この一言に限る。


説明すると建物一つ一つが、近くで全貌を一眼で入れようとすると、

自然とイナバウワーする必要があるほど、でかい。

国の力強さなどを顕示するためにそうなっている、という事ならばまあ、そうなのだろう。

ただ内部に入ってみればそれは違うとわかる。


顕示するだけならそれだけで十分だが、試しに教会を例に挙げてみると、

馬車を三つほど縦に積んでも余裕で通れそうな高さを持つ扉がまずある。

それを扉を開ける魔法具を操作してもらい中に入ると、まず目に入るのは、白く輝く大理石で作られた床、壁、そして彫刻。その全てが滑らかに傷ひとつもなく手入れされていた。


そして観光用の通路を奥に進むと、礼拝用スペースとして、彫刻を抜きにした同等の広さのところに青と金色の紋様が入ったカーペットが敷かれ、そこで祈ることができるようになっている。

そして、一般客用スペースと、教会所属の人々用スペースが、大理石とガラスで隔てられていて、

その奥には五段ほどの階段があり、そこで神父と修道女が膝をついて祈りを捧げていた。


より神様に近い立場で仕事をしているということで、自分の声が届きやすくなるとかはあるのだろうか。ほら、そこに所属している特権みたいな感じで。わからないけども。


そして奥に進んだが、教会の横にある公園に出ただけだった。見て回れる場所は案外少なかった。


神事しんじというのは、大体が人々の寄付などで成り立っていると思ったが、そのようなところは見当たらなかった。国が出しているのだろうか。


そうやって一通り人が多いと思われる場所を回った後、昨日ダンジョンで手に入れた魔石を受付で

換金してもらい、王都にある庶民向けの店で服を買い揃えた後、人の流れを感じながら王城へと続く大通りを歩いていた。


観光が終われば次は飯だ、時刻も上手く昼時で、この通りには物の焼ける美味しそうな匂いが広がっていた。


「どうする健斗。自分は昼飯なんでもいいんだけどさ、

しいて言うならランチが食べてみたい、元居たとことこっちじゃその違いもあるだろうし」

「なんでも良くは無いんかよ。そうだな...自分もこれっていうのが無いし、食べ歩きにするか」

「賛成」


てなわけで露店を漁る事となったので、今はそれが多い市場に足を向けている。


この世界に来てわかったのだが、ここでは店を構えるよりも路上にテントを張ってそこで食べ物を

売買するというのが主流らしい、土地を買ってそこに店を入れるという手間と金が掛からないから

なのだろう。失敗した時のリターンも少ないからというのも、その中の理由にありそうだ。


まあそんなことは置いといて。


「じゃあ、これと、これを二つずつで」

「まいど!」


全体的に混雑しているというより、していない場所を見つけるほうが大変な露店が建ち並ぶこの場所で自分たちが目を付けたのは、赤い見た目が特徴の丸っこいボール型の食べ物と、

その隣に売られている、緑色のトゲトゲしている中身が黄色の何かだ。

市場を歩いているときに、たびたび目に入ってきたこの二つを美味しそうに、または苦しそうに食べている人たちの反応を見て気になっていた次第である。


受け取った二つを取り、歩きながら匂いを嗅ぐ。すると唐辛子のような、鼻にピリッとくるにおいがした。


「ゲテモノなのか、これ」

「ゲテモノではないだろ、言ったとしても珍味ってとこじゃないか?

嗅いでみたらピリってしてるし、辛いからいから他の人は顔を顰めてるって俺は思うけど」


それを聞いて、グレイが一口齧ってみるとその通り顔を苦しくさせた。


「うん...凄い辛い、けど美味いなこれ。味は食べたことない味がするけど、辛さがそれを引き立たせると言うか。癖になる味だわ」

「まじかい、じゃあこの緑のやつってなんだろうな、セット品ぽいけど」


少しだけ皮の部分をかじってみると、爽やかな甘さとサラッとした果汁が口の中に広がった。


「お、甘いぞこれ。フルーツみたいな甘さじゃなくてお菓子的な甘さがある」


その後も、二つを同時に食べるとその辛さが別の旨さに変化したり、辛い方を単体で一気に食べて喉を焼いたりと、楽しみながら食べ、残りの観光地をめぐりながら一日を過ごした。


裏で事態が動いているとも知らずに...

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