第二章 王都編
第二十二話 二章プロローグ
色が抜け、所々に傷が入ったボロボロのフードを被ったある小柄な病的なまでに白い肌の人型が、苔むした通路の壁に留まった発光虫の光に照らされた階道を進む。
コツ...コツ...コツ...
「...」
足音以外何もなく、ただ真っ直ぐ歩き続け、ある地点を境に道が消え途切れた先にまた伸びているが、その手前でボソッと唱えるとそれが姿を消し、そのまま宙を真っ直ぐ歩き続け、壁の奥に透過して、明るいようで暗い光が差し込む階段状の講堂に出た。
「...来たか」
光が差し込むその先に同じような外套を纏い、まるで狼型の獣人をそのまま白骨化させ、耳の部分には青白い透明の粘液体が纏わりついている。
相変わらず気色が悪い...
「ええ、貴方から私たちに用があるとは珍しいわね。野良犬はお腹を空かせて尻尾でも振ってニンゲンを襲っておけばいいものを」
「お前の小言には付き合っている暇は無い、要件を話すぞ」
「...グゴゴアァァ!」
「...煩いわね、ふっ」
くぐもった唸り声が講堂の二階で響かせると同時に姿を消し、近くで手を覆い被せ吐息をひとつ、それだけで体を一瞬にして焼き尽くし、どこから吹いた風とともに灰を飛ばした。
「どうぞ続けて?」
「...邪神の奴らが復活し魔王というものを生成、それに加え反抗側の神々が続々と倒れ、終結しかかっている。そこで隴鯉スァ邵コ蜉ア繧キ繝上>の主に救援を要請、ワシはその仲介役だ」
飛んでいく灰を眺め、その残滓を口に入れ咆哮をあげる。
「相変わらず汚い声を上げるわ...そう言えばさっき、貴方が自分から行かなかったのは予想外だったわね、何時もなら爪の一つや二つ飛んでくると思って居たのだけれど」
「腐っている奴どもは腹の足しにならんので好かん。それともその発言はお主を喰っても良いということか?」
研ぎ澄まされた八重歯が姿を覗かせる。
「あら、やっぱりお腹を空かせたワンちゃんだったわね。良いわよ。でもできるもんならね...!」
虚空から杖を取り出し宙に浮かぶと同時に講堂全体が炎と氷に包まれ、牙と鉄杖の音が鳴り響く。
片方は獲物を狙う殺戮者のように、そしてもう一つ、外套が熱によって溶け姿を現したのは、狂気を体現したかのような姿をした女性だった。
——————————
冒険者ギルドを後にし、所持品を整理した後、泊っていた宿の女将さんにお礼を言い後にする。
「さて、と、じゃあ出発しますか」
先に外に出ていたメンバーに声をかけ、出立の意を伝える。
グレイとシャニが振り返り、それに肯首した。
「そうだね、お別れの言葉は出る時にするってことでいい?」
「ああー...そうですね、そっか...先輩、ラミリスさんと一緒に修行に行きますもんね、最悪の事態が起こる事がないと信じたいです」
「うん、なんやかんやで出会ってから会話しなかった時って数えるくらいしか、無かったもんね。大丈夫だよ、私って結構しぶとかったでしょ?」
「そうですね」
そう言って思い出すのは転移する前の先輩の姿。彼女はTRPGにおいてもそうだったが、どんなに危機的な状況でも、ミレイとグレイの二人がキャラロストした後にも、命からがら生存し続けた胆力。
というよりその状況をどう切り抜けるかというロールプレイで、幾度も
まあ何とかやっていけるよな、自分よりこの世界じゃ断然ラミリスさんの方が頼りになるだろうし。
いつの間にか人だかりに塗れて姿が隠れ、通りが徐々に囂然として行っているので、先に行っておくと何とか伝えると、サムズアップで応えた——というより人波に飲まれて助けを求めているようにしか見えない。気のせいだろう。
—————
十五分後、第一関所の厩舎から出てきた黒鹿毛、白毛の二匹が牽引する自分たち用の馬車に手持品を詰め込み、何処からか、自分たちが王都の冒険者ギルドに誘致されたという情報を手に入れ関所に集まってきた耳聡い人たちに握手で応える。
「二人はそろそろ出発かの?元気でしておれ、男は女子を心配させるものじゃないぞ」
「そうだよ、。どうか元気でね二人とも、私、強くなって帰ってくるから、それまでに有名になっといてよ?埋もれてたら承知しないんだから!」
表情を明るくしていつも通りに振る舞っているが、目尻が赤くなっており眼がうるうるしているのは隠せていない。自分もそれを見て涙腺が緩む。
「はい、先輩...どうか元気でいてください...」
「ミレイも泣く時は泣くのか...まあ俺も結構厳しいけどよ」
肩が震え涙を堪えているグレイ、その二人を見てシャニがゆっくりと近づいて抱きしめると、二人は限界を超え嗚咽を漏らし始める。
ひとしきり泣いた後、不安から来るモヤモヤした気持ちが少し波を沈め、三人は顔を上げる。
「それじゃあ先輩、またいつか。それまで元気でいてくださいね」
「そうだな。先輩、体壊さないでくださいよ?結構無理しちゃうのがたまにキズなんですからそれだけが心残りっす」
「修哉は包み隠さず言うね...まあその通りなんだけど。二人ともできるだけ怪我はしないように、何が起こるかわからないからさ」
握手をしながら顔を見合わせお別れを告げる、それと同時に冒険者ギルドから派遣された馭者が「そろそろ出発しますね」というと、「また」という意を込め軽く抱きしめたあと、馬車に乗り込む。
二人が中の席についた後、馬車の窓を開き顔を覗かせる程度にだして腕を振る。
少しづつ離れていくと共に、これから一生会えないような気持ちが徐々に増えて不安になっていくが、頭を振って気持ちを払拭し、姿が見えなくなる時まで振り続けた。
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