第二十話 冒険者ギルドへ

そこから一週間、体の回復に専念した自分たちは退院の日を迎えていた。


「それではお大事に、それはそうと今度ラミリス様のお話聞かせてください!」

「え...ええ、機会があったらその時に」

「お願いしますね!!」


病院というよりかは治療院のようなこの施設から出ようとする自分の手を取り、目を光らせながら全力で上下させる。あの目覚めた日に爺さんの正体を知った日から、ちょくちょく部屋に明らかに高頻度で誰かが入ってくるようになった、自分たちは見世物じゃないっていうのに...それでも、

爺さんを見つめる目が、珍しいものを見るような好奇心と憧れのような羨望の眼差しだったから、強くは絶対には言えない。


そんなに聞きたいのか、どれほどの有名人だったんだよ本当に...


そのことを思い出し、ため息をついたミレイ。

その隣には、普段からはあまり想像できないおとなしくしているシャニと、後ろには少しやつれ気味のグレイがいる。


シャニはこれからラミリスと共に修行の旅に出かけることになっている、今回の事件であまり自分が活躍できていないと感じたらしく、目が覚めた翌日にその話をすると、「お願いします」と即答したのだ。


そしてグレイだが、やつれている理由は自分と同じだ、とにかく質問攻めや空気に耐えるのに疲れたらしい。だが手助けは絶対にしない、こいつ「あっちの青年の方がよく知っているぞ」と他人のように振る舞って、自分の方に爺さんのファンたちの対応をさせたんだぞ、信じられるか?


そう内心憤りながら、中から手を振ってくれるお世話になった人たちにお辞儀をしながら、

エントランスを後にした。


———————


今は、この町の領主に呼ばれ冒険者ギルドに向けて歩いているところだ、領主館のある第三区画に足を運ぶとなると、どうしても人目は避けられないということで、いつ連絡をとっていたのか、

冒険者ギルドの応接室で、直接話をすることになっていた。


おそらくというよりほぼ確実に、今回のスタンピートのことについての詳細だとは思うが、多少の覚悟をしていたのと、グレイの助言のおかげでどこかで躓く事無く物事が進んでいた。


大通りに入ると、病室から聞こえてきていた喧騒の理由がはっきりとした。

どうやら先のスタンピートで、町中が半分お祭り騒ぎになっていたのだ。


「ほらほらー!!レッドボアの鋭角が安くなってるぞ!今なら一個どうか7枚!お買い得だぞ!」

「こっちはスルブドの木素材で作ったスピアだ!銀貨2枚でどうだ!」


至る所で魔物の素材で出来てある商品や、それによる経済の活発化、そして行商人たちの往来が大量に増え、一つ間違えると耳の鼓膜が壊れるのではないかというほど、賑わっている。


「すっごい盛況ですね、これだと素材の取り扱いしている冒険者ギルドがすごいことになってそうです」

「そうじゃな、儂はそんなことよりお主らの迷惑にならないかだけが心配じゃ、病院ではモテの施しようが無くなったからの」

「それはライネル師匠なら大丈夫です、今は変装もしてますし、軽くフードもしてるのですぐにはバレないかと」


シャニはラミリスと同じ外套を纏い、左に髪の毛を丸く収めているので、角が気に止まることはない。こんな時こそ女子の力は役に立つんだよな、変装というより偽装だけど。


「そうだといいのじゃがなシャニよ、ところで体に異変はまだ起こってないかの」

「...はい、強いていうならこの片角が定期的に気になるだけですかね」


病院で説明のあった日、シャニの額を確認してみたところ左の頬に白色の2センチ程の直っすぐな角がやはり生えており、初日は慣れない感覚と説明に戸惑っていたが、次の日にはうまくそれを使ってヘアアレンジをするという強い胆力を見せた。というよりはもともと、APP値、つまり見た目がとんでもなく可愛いので、そこでフードとその組み合わせとなると二度見する人がさらに増えた気がするのだが、何にしても、過ぎるというのはダメらしい。


それに本人は気が付いているのだろうか。


「気になるのは最初だけじゃ、いきなり体に変化があったら落ち着かないものなのじゃよ、大体 1ヶ月くらい経てば余り気にならなくなる」


「角か...俺も生やしてみてえな」

「...じゃあグレイも瀕死状態になったら?こっちの境遇がわかると思うし、臨死体験ってあまりできないよ?」

「...やっぱりやめとこ」


瘴気を抑えるため飲ませた兵糧丸だが、あくまでこれは、瘴気によって体内に異常量発生する魔力を強制的に押さえ込む代物で、自己崩壊が始まらないよう抑制するのだが、魔力自体をどうにかするものでは無いので、その行き着く先が、角となって変化するという過程がある。そこから考えると、角自身、魔力をその部分に蓄積する魔力タンク、ということになるのだろうか。


実際、森の中で見たあの魔族らしき奴も角を持っていたし。



大通りを抜け、懐かしく感じる木製のドアを開ける。

最初の時とは違い、目線が飛んでくる事もなく、ただ一つ気になることがあるとするならば買取受付の前にとんでもない量の魔物の素材があることだろうか。


空いているテーブル一つを陣取り、その束を見つめる。


「倉庫なども埋まっちゃったんですかね、四分の一も中占めちゃってますし」


鉄柵で一時的に場所を確保しているが、何せ数が多いせいで個体の大きさはそれほどでも3メートル積み上がったそれを見れば、いかに森の中にいた動物が多かったかがわかるだろう。


「そうじゃねえか?明らかに量がおかしいし、俺たちが倒れた後も討伐が続いてたとしたらそうなるだろ」

「そうじゃな、噂をすれば来たようじゃぞ」


そう言い、受付方面から私服姿で腰に剣をぶら下げた、カルナ、ライネルを後ろにつけ、

三十歳の筋骨隆々なギルドマスターがやってきた。


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