第十三話 隠密行動開始

次の朝、すぐに身支度を整え武具屋の装備を取りに宿を出る

日が上がり出してからそんなに経っていないのに、通りには人の往来が絶え間なく続いている。

昼の時に比べ、人の代わりに馬車などの通りが多いのは、商品を店に入れるための仕入れ作業を行うためだ。


「朝からみんな元気っすね。早いとこだともう店も開店してますし、全体的に早起きなんですかね?」


朝に比較的弱いミレイが気怠けな表情で問う。

昨夜は一応はやくは帰れたのだが、そこから晩飯や風呂などの時間を割くとどうしても深夜になり、今日は早く宿を出て、昨日の怪しい集会の本拠地に潜入するということで、普段はしないほど、早起きをしている。


時刻は大体六時前くらいだろうか、昨夜寝たのが深夜だとすると、本当に五時間ほどしか睡眠を取れていないことになる。


「私は結構平気だけど、健斗がロングスリーパーなんじゃ無い?私はそんなに寝なくても平気だし」


「日本の時の生活に精神が慣れているからな、一週間もすれば体が慣れてくるだろ」


そういう二人は、いつもと変わらない足取りで歩く。ミレイはいつもより遅く歩いているので

一人だけ前を歩くということも無い。


「お、ちゃんと店開いてるじゃん」


夜は、店前の小さい看板が中に取り入れられており、全面に空いている入り口が閉じられており、一見するとただの家なのだが、今はどうやら空いているらしい。


「ほんと元気だな、自分が恥ずかしくなってくるわ...」


「そうだね。、厳しい環境にいると体が適応していくのと一緒で、もしかしなくても、

不安定なご時世、早起きに慣れてるんじゃない?」


「確かにそうですね。自分もこの体質が治ればいいんですけど...」


「自分も早く治したいですね、絶対この世界だと苦労しますもん」


「...朝から玄関前で話し声がすると思ったらあんたらか、注文は出来てるから中に入りな」


武具店の前で朝の体質について話していると、中からグラシャが顔を出し、ニカっと笑いながら店の中へ手招く。


「さすが職人っす、手がはやいっすね」


「当たり前よ、これから贔屓にしてくれるとなるとこれぐらいはしねーと、鍛治職人の名が廃るぜ!」


「今回は普通に中に入っていいんですか?」


裏の工房と店前の商品の販売所を遮る暖簾を退け、中に入るよう促す彼に問う。


「そうだ、一応特注品に分類されるからな、いろいろ聞かれたら不味そうな話をする時もあるからな、一律こんな時は中で話をするってのがここら辺りの決まりだ」


装備をただ購入するだけならばその場で試着などを済ませ、購入して、はい終わりというふうになるのだが、特注品となるとその個人個人の戦闘スタイル、性格、完全な体の大きさまで聞かれることが多く、その鍛冶屋一つ一つの技術が必要となるので、外に広まらないような仕組みとなっているらしい。


「今から装備を持ってきて説明をするが、その中で俺の製法の話を口外しないようにしてくれ、そうしたらあんたらの信用が一切なくなって、どこも二度と作ってくれなくなるからな」


「...相当ですね、わかりました。うっかり口を滑らさないよう気をつけます」


「期待してるからな」


そういい、奥の倉庫から三つの装備立てを一つ一つ持ってくる。

左から、急所だけ守ってある身軽そうな防具、そして指を通して使う爪のような形をした、格闘家装備と、中央は刀身70センチほどの刀を腰につけた、全身薄い鉄プレートの剣士用装備。

そして、布装備と緑色の宝石を先端に埋め込んだ杖のある、魔法士の装備となっている。


「それぞれの体に嵌まるように作ったが、目だけの判断で作ったからな、もし変なところがあれば

言ってくれ、少し調整する」


立て掛けてある装備を足から順につけていく。

見た目は薄いが、叩いてみるとしっかりと重い音が鳴り響く、きっと鉄ではなく鋼の装備なんだろう。刀の方もそうだ、鞘から取り出し中を見てみると、甲高い音が鳴り、工場の光に照らされ刀身が白色に光る。中学校時代剣道部だったミレイが両手で、正面に構えるとしっかりと手に馴染む、どう考えても達人の代物だ。


「すごいですね...三人分を一日で作るなんて...」


「いや正確には二人分だ、俺は鍛治はできるが、織物とか魔法を使うやつはさっぱりだからな、

嬢さんのそのローブは妻の手作りで、あいつは魔力を織り込むのが得意だからな、性能は折り紙付きだぜ」


サムズザップするグラシャと、話を聞いてプルプルと震えだすシャニ。


「...そんな高性能なもの私がもらっていいのかな...?」


「大丈夫だ、制作でたまたまクリティカルが出たとか言ってだな、運が良かったってことにしといてやるよ」


「やった...!そう考えると二人の装備も大概だよね、どう着てみた感想?」


刀を正面に構えたまま、その光り様に目を同様に光らせるミレイと、

腕に手蓋を装備し、爪先が付いたナックルを握っているグレイに目を向ける


「俺は想像してた以上の出来上がりに凄い驚いてます...刀とかを実際に手に入れて心が跳ねないことってありますか?」


刀をまじまじと眺めウットリしながら、嬉しさを爆発させる彼を見て、グラシャも口が綻ぶ


「お前は両刃の剣を使うようなやつには見えなかったからな、東洋に伝わる剣を模して作ってみたが、気に入ってくれたようで何よりだ」


「良かったな、俺は収納機能付きだぜ、これ結構使い勝手よさそうだわ」


そう言い、手で握っている手甲鉤に似た装備の爪部分を、内側に直したり出したりする


「そいつの名称は『サグロナク』徹甲金剛拳って呼ぶ代物で、俺の渾身の出来だ、

敵を避けながら倒していく戦闘スタイルだって聞いてたからな、スピードは落とさずに使い方によれば深いダメージを入れることもできるはずだ。」


「まじか...本当にありがとうございます。」


「ああ、久しぶりにやりがいのある仕事だったからな、こちらこそ感謝だぜ」


腕の筋肉を叩き工場の火を弱める、今日は仕事を休む日らしい。


「そんな事よりも、こんな朝早くからこんなところに来るってことは、急ぐべきところがあったんじゃ無いか?」


「あ!そうでした、では行ってきます!ほら二人行くぞ!」


刀を鞘に納め、腰にかけると出口へ向かう。


「おう、頑張ってこい!」


そう言い腕を突き出してきた。彼の拳と拳を合わせると、笑みを深め「気を付けろ」とも言ってきた。


「街出る前に、念のため回復薬だけ買って行かない?絶対怪我は負うと思うし」


というシャニの一言で、直で門に向かう前にワンクッション置いてから、検問を通り、昨日の森の奥へと向かっていく。


1キロほど奥に進むと空白の平原らしき地帯が見えてくる、あいつらが昨日、集会をしていた場所だろう。所々焼け跡が残っていたりしている。


「ここから一応身を隠しながらで進みましょう、まだ彼奴らが残っている可能性があるので」


身を草木に隠しながら進む二人に、首を少し出して進んでいるミレイが指で伝える。


「『隠密』のダイスロール...環境と、目的地の距離の成功率補正...+50...70以下で成功...

ミレイ、14...グレイ、54...シャニ、69...全員成功...」


忍び足で近づいていくと、背中に翼が生え頭から角を生やした生き物と、その背後に頭にフードを被った人影が見えてくる。何かを話しているが、内容は全く聞こえない。


「あいつらの会話を聞き取るため、聞き耳を使う」


「...環境と対象の距離で可能性を補正...−40...全員で行います...それぞれ、ミレイ、シャニは三十以下で成功...グレイは成功率がゼロ以下の為、自動失敗...61、88、失敗...。」


「ッチ、流石に聞くには遠すぎたか...」


「どうする?プッシュ使う?」


『プッシュ』

技能判定が失敗した時に、キャラの周りの状況に合わせて、失敗したときの代償を大きくする代わり、もう一度判定を行うことができるようになる、プレイヤーが選択できるもう一つの可能性だ


「そうですね、左に回れば丘みたいなところがあるんで、そこでします。

でも失敗したら絶対見つかるので、すぐ逃げれるように、ここで待機しててください」


「わかった。気をつけて...」


すぐさま行動に移す。今は森林に紛れているため、見つかりはしないのだが、問題は丘に登ってからだ。場所は、先程より近くなるので可能性としては減少値は少なくなるが、見晴らしが良いため向こう側からも発見される可能性が高い。そして今回はプッシュも使っているので絶対に失敗出来ない。


「登攀を使用...70以下成功...36...成功」


丘に登るため、脚を掛けれる岩に捕まりながら4メートルほど登り、その場から伏せながら近づいていく。


「『聞き耳』を使用...環境と聞き耳対象の距離的要因で自動成功...しかしプッシュ効果により、その後、ミレイが見つかるかの『隠れる』判定を行います...初期値20以下成功...06、成功。」


よし!プッシュ判定初めて成功した!あいつらは一体なんて言ってるんだ?


耳を済ませ会話内容に集中すると、少しずつ声が大きくなっていきちゃんと聞き取れるようになっていく。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


これ以上書くと結構長くなるので、今回はここで切ります。

『追記』

誤字脱字があればどんどん言ってください、この話にもあったので修正しました。

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